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いまイチ押しのアフリカ出身・アフリカ系アメリカ人アーティストたち。「1-54 ニューヨーク」アートフェアより

アフリカとアフリカン・ディアスポラの現代アートに特化したアートフェア、1-54 ニューヨークが5月19日〜22日に開催された。アフリカン・ディアスポラとは、アフリカ系アメリカ人やアフリカ人の子孫を指す。会場では、綿密なキュレーションによる数々のすばらしい作品が展示された。

1-54ニューヨークのオープニング風景 Photo: Eva SakellaridesS

使われなくなった教会を再利用したギャラリー&イベントスペース、118丁目のハーレム・パリッシュで行われた1-54ニューヨーク 2022から、特筆すべきブースを紹介する(見出しはアーティスト名/ギャラリー名の順に記載)。

Bertina Lopes/Andrew Kreps(ベルティーナ・ロペス/アンドリュー・クレプス)

ベルティーナ・ロペスの作品(1975) Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

ニューヨークのトライベッカ地区にギャラリーがあるアンドリュー・クレプスは、ベルティーナ・ロペスの作品を2点展示した(リチャード・ソルトーン・ギャラリーとの共同出展)。ロペスはモザンビーク人で、1964年以降はローマに移住して活動し、2012年に87歳で亡くなった。美術史家のナンシー・ダンタスは、ニューヨーク近代美術館(MOMA)に寄せたエッセーで、「数々の困難にもかかわらず、ロペスは自らの奥底にあるエネルギーをテコに、類まれな作品を制作した。それを見ると、モザンビークの民族主義がモダニズムを待ち望んでいたことがよく理解できる」と評価している。

ロペスは、1950年代から、モザンビークがポルトガルからの独立を果たした75年までの間に制作した政治的なテーマの作品で知られる。今回展示された2点(75年と77年の作品)は抽象画で、そこに表現されているのは植民地支配下での長い闘いの末に達成された祖国独立の喜びと高揚感だ。らせん状のカラフルな線で構成された脈打つような球体のモチーフが、はつらつとした美しさを見せている。なお、アンドリュー・クレプスは2023年1月、ギャラリーでロペスの個展を予定している。

Yoan Sorin/espace d’art contemporain 14N 61W(ヨアン・ソラン/エスパス・ダール・コンテンポラン14N 61W)

ヨアン・ソランの作品 Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

どうしたら音を絵画に移し替えることができるか──ヨアン・ソランが出品したインスタレーションは、そんな問いから始まっている。鈴やタンバリンなどの小さな楽器を取り付けたハイブリッドな絵筆を作り、それを使ってパフォーマンスしながら別のタンバリンにビニール塗料を塗る。すると、そこにソランの動きが記録され、絵画についての音楽的理解が得られるというわけだ。

これは「À deux pas du silence(静寂からの一歩)」と題されたシリーズの一部で、ほとんど抽象と言っていい小ぶりな作品だが、驚くほどの生命感がある。ソランはステートメントの中で次のように述べている。「『À deux pas du silence』は、道を踏み外した行いや、何らかの行為によって生じる副作用や派生的な影響を称えるものだ。静寂のそばで、私たちは大声で叫ぶか、沈黙する。そして、私たちは愛するものに目を向ける」

Abi Salami/Montresso Art Foundation(アビ・サラミ/モントレッソ美術財団)

アビ・サラミの作品 Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

マラケシュ(モロッコ)のアーティスト・イン・レジデンス、モントレッソ美術財団は、ダラスを拠点とするアビ・サラミの絵画2点を展示した。どちらも、うたた寝をしている黒人女性を描いたもので、サラミ自身の言葉によれば「休息を許されている、あるいは休息するよう勧められているのは誰か」という、長く取り組むテーマだ。「黒人女性は、白人男性と同じように休息を勧められているだろうか」とサラミは問いかける。グーグルの画像検索で「日帰りスパ」や「セルフケア」を検索しても、スパにいる黒人女性のイメージはほとんど出てこない。サラミの作品の狙いは、こうした状況を変化させることにある。

出展作品の1つでは、ある黒人女性がどうやら友人とアフタヌーンティーをしているようだが、頭をテーブルにのせて寝てしまっている。人生に疲れ切っていて、自分をケアするひとときを楽しむことさえできないらしい。女性の背後には、ティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》(1534)やマネの《オランピア》(1863)を思わせる白人の裸婦像が描かれている。これらは「I Don't Want to Hear That You're Suffering(あなたが苦しんでいることなんて聞きたくない)」と題されたシリーズの作品で、黒人女性は「黙って苦しむこと」を求められるというサラミの指摘を強く印象づける。

David Uzochukwu/Galerie Number 8(デビッド・ウゾチュクゥ/ギャルリー・ナンバー8)

デビッド・ウゾチュクゥの作品 Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

ベルリン在住でナイジェリア系オーストリア人のアーティスト、23歳のデビッド・ウゾチュクゥによる不可思議な写真が展示されたブースは、会場全体の中でもとりわけ魅力的だった。複数の写真をデジタル処理で合成し、黒人が海の中にいる場面を描いている。これは、アフリカン・ディアスポラと海の関係、特に大西洋を横断して行われた奴隷貿易を暗示している。

しかし、写真の人物たちは苦しんではいない。ウゾチュクゥはフェアのプレビューで、彼らは黒い人魚族であると説明し、「黒人であることと水との絡み合いが幻想的に反射しあう様子」を表現したと述べている。ウゾチュクゥがこのテーマで制作を始めたのは、2015年から16年にかけ、アフリカからヨーロッパへ渡ろうとした大量の難民のニュースがメディアで大きく取り上げられた時期だ。セネガル、ベルリン、タイで撮影を行い、「デジタルの新しい地理」の創造を目指すという。

Micah Serraf/International Studio & Curatorial Program(ミハ・セラフ/インターナショナル・スタジオ&キュラトリアル・プログラム)

ミハ・セラフの作品 Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

ニューヨークのインターナショナル・スタジオ&キュラトリアル・プログラムは、「Hope Is a Dry Colour(希望は乾いた色)」と題したプロジェクトで、ジンバブエ生まれでケープタウンを拠点とするミハ・セラフの写真とテキスタイル作品を展示した。特に、アフリカの軍事基地や、100世帯ほどの家族しか入ることができない自然保護区など、立ち入りが禁止された場所を捉えた写真が印象的だ。

アフリカ南部のショナ族を母に持つセラフは、かつて祖先がこうした場所を歩いたことを想像し、自分との本質的、遺伝的なつながりを感じたという。現地でも、瞬時に場所とのつながりを直感したといい、匂いで記憶がよみがえるのと同じようだったと説明している。ただし、ここでよみがえったのは、時間を超えた記憶なのだ。また、セラフが手縫いしたパラシュートに人物が覆い隠された写真は、抽象的な風景を描いたタペストリーの物質性との関連を感じさせる。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月20日に掲載されました。元記事はこちら

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