Tokyo Gendaiが開幕! ARTnews JAPAN編集部が選んだベストブース
アートフェアTokyo Gendaiが開幕した(7月7日まで)。4日に行われたVIPプレビューには開場待ちの長蛇の列が出来、大いに賑わった。今年の同フェアの中で、ARTnews JAPAN編集部が注目した5つの展示を紹介しよう。
国際的なアートフェア、Tokyo Gendaiがパシフィコ横浜を会場に、4日のVIPプレビューを皮切りにスタートした(7月7日まで)。2回目となる今年は、初出展となるギャラリー26軒を含む、世界18カ国から69ギャラリーが参加。メインの「Galleries」、新人または中堅のアーティストの作品が集まる「Hana ‘Flower’」、著名な作家または歴史的に重要なアーティスト、もしくはテーマを設けた展覧会を行う「Eda ‘Branch’」の3セクションで展示が繰り広げられている。
また、国籍や世代、文化的アイデンティティが異なる4人の女性アーティストにスポットライトを当てた特別展示「Tsubomi 'Flower Bud'」も見逃せない。会期中はアーティスト、キュレーター、コレクターなど、さまざまな分野で第一線で活躍する人々が対談する8つのトークセッションや、出展アーティストがナビゲーターとなる子ども向けワークショップも行われる。
VIPプレビューに先立って行われた記者説明会では、主催者であるアート・アッセンブリーのマグナス・レンフリューが挨拶した。レンフリューは、今年は東京にPaceが新ギャラリーをオープンさせるなど、「日本のアートシーンがエキサイティングになっている」と強調。また、日本のアートマーケットのウィークポイントだった保税に関する法律が改正され、海外のギャラリーが参入しやすくなったことで、今後さらなる市場の活性化が期待できると話した。その上で、「同フェアの目的は、日本の現代美術に対する国内外のオーディエンスを増やすこと。フェアを通して人々が今まで知ることのなかった作品を紹介したい」と締めくくった。
それでは、2024年の展示の中でARTnews JAPAN編集部が注目した5つの展示を紹介しよう(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。
1. Lois Weinberger/Keteleer Gallery(ロイス・ワインバーガー/ケーテレール ギャラリー)
同フェア初参加となるベルギー・アントワープのケーテレールギャラリーは、人間と自然の世界の共存をテーマに生涯作品制作したロイス・ワインバーガー(1947-2020)の個展を展開した。その中でひときわ目を引いたのが、日本のスーパーのチラシや新聞に植物が貼り付けられた《Ajishima Island Japan》(2019)だ。
ワインバーガーは、死去する1年前の2019年に東京のワタリウム美術館で回顧展「ロイス・ワインバーガー展 見える自然/見えない自然」を開催し、リボーンアート・フェスティバルに参加した。その際に日本に滞在し、宮城県網地島で《Ajishima Island Japan》を制作した。同作は日本で未発表だったが、今回初めて展示されることとなった。
同ギャラリーのオーナーであるフレデリック・ケーテレールは、2年前にワインバーガーの遺族と会い、この作品と出会った。「(チラシは)色彩やデザインが目を引くように、人間が考え抜いたもの。近づいてよく見ようとすると、ワインバーガーが網地島で選んだ植物の世界があるのです」とその魅力を語った。
2. Sareena Sattapon(サリーナ・サッタポン)/Tsubomi ‘Flower Bud’
Tokyo Gendaiの出口付近で異彩を放っているのは、パフォーマンスや映像、写真など様々なメディウムを横断的に用いて作品を発表している、タイの少数民族にルーツを持つ女性アーティスト、サリーナ・サッタポンのインスタレーションだ。サッタポンは2022年のCAF賞最優秀賞を受賞した若き作家であり、現在、東京藝術大学の博士課程で学びながら制作活動を行っている。
工事現場で用いられる鉄パイプの資材で組んだ足場のまわりに、小柄な人なら余裕で入れそうな巨大なランドリーバッグ(海外で100円ほどで売られている頑丈なプラスチックバッグで、筆者も学生時代に週に1度、コインランドリーに行く際に活用していた)が多数吊り下げられている。これらのバッグは労働者階級の人々にとって「生活必需品」の象徴のような存在だが、ファッションに詳しい人であれば、作品タイトル《Balen (ciaga) I belong》から、このチープ極まりないバッグの超高級版パロディが「イットバッグ」として大流行したのを覚えているだろう。
インスタレーションの側の壁に取り付けられたディスプレイには、《Balen (ciaga) I belong》のパフォーマンスが投影されているが、そのそばにぶら下げられた半透明のプラスチック板をかざさない限り見ることはできない。見ようとしなければ、見えないのだ。
サッタポンは、足場と安価なバッグというたった二つのマテリアルを用いて、わたしたちが生きる社会の構造や制度の矛盾や不平等に鑑賞者の目を向けさせるのだ。
3. Seyni Awa Camara/Perrotin(セーニ・アワー・カマラ/ペロタン)
1989年にポンピドゥー・センターで開催された「大地の魔術師」展。美術展にならぶアーティストと言えばほとんどが欧米出身だった時代に、世界中から100人のアーティストを選定したこの企画は、美術における多文化主義やポストコロニアリズムの先駆けの一つとして知られている。この展覧会でフィーチャーされたアーティストのひとりがセネガルのアーティスト、セーニ・アワー・カマラだった。複数の人間や動物の身体からなるトーテムポールのような彫刻や、出産シーンを描いたようなその彫刻作品はどこか奇妙で神秘的。ペロタンは来年御年80歳を迎える彼女の作品をフィーチャーしている。
4. ナム・チュンモ/Ceysson & Bénétière(セイソン&ベネティエール)
フランソワ・セイソンとロイック・ベネティエールが2006年に創業し、ルクセンブルグ、パリ、ジュネーブ、ニューヨークに拠点を構えるCeysson & Bénétière 。2024年秋から東京・銀座にギャラリーをオープンするこのギャラリーは、点や線を用いて作品を制作する韓国人アーティスト、ナム・チュンモの作品をフィーチャー。
韓国の江原(カンウォン)で生まれ、山肌に規則的に並ぶタバコやコショウ畑に囲まれて育った彼は、作物が描く線をモチーフに作品を制作しているという。幾何学的、あるいは平面的な作風からキュビスムの要素を見受けられるものの、どことなく爽快感を感じられたペインティング《From lines 3011》は印象的だった。
5. Marcel Broodthaers/TARO NASU(マルセル・ブロータース/タローナス)
田島美加、リアム・ギリックなど現在活躍中のアーティストの作品が並ぶタローナスのブースの一角に、特別な部屋が設けられていた。部屋の壁紙は2021年に死去したローレンス・ウィナーのもの(これもれっきとした販売作品だ)。壁に映写されているのは、ベルギーの詩人・映像作家マルセル・ブロータース(1924-1976)の、ひたすら自らの手書きのイニシャル「M.B」を映写し続ける《Signatures》(1971)。傍らには、サイ・トゥオンブリー(1918-2011)が自身の名前を繰り返し書き込んだ《Eleven signetures》がある。これらのアーティストは、いずれも現代アート史に大きな足跡を残した人物だ。同ギャラリーでは、現役の作家たちに繋がるその歴史の流れを知ってもらおうと、先人たちの展覧会を年1度程度開催しているという。彼らの創作を味わって今の作家たちの作品に向き合うと、また異なる視点が得られるかもしれない。