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約4000年前の神殿と劇場がペルーで出土。複雑な宗教体系と宇宙観を知るための「極めて重要な発見」

ペルー北部の遺跡から、約4000年前のものと見られる神殿と劇場が出土した。古代アンデス文明の最初期における宗教の成り立ちを解明するための重要な手がかりとなりそうだ。

フィールド自然史博物館のルイス・ムロ・イノニャンと神話の鳥をかたどったレリーフ。セロ・ラス・アニマスのラ・オトラ・バンダ遺跡にて。Photo: the Ucupe Cultural Landscape Archaeological Project

7月9日にシカゴのフィールド自然史博物館が発表したプレスリリースによると、考古学研究チームは6月にペルー北部セロ・ラス・アニマスのラ・オトラ・バンダ遺跡で調査を開始。これは、サーニャと呼ばれるこの近辺の地域で盗掘が行われているとの通報を受けてのものだった。

研究者たちが10メートル四方の土地を発掘すると、深さ約1.8メートルのところで粘土と泥でできた壁が出土。さらに掘り進むと、大規模な神殿の一部が見つかった。発掘チームを率いたフィールド自然史博物館のリサーチ・サイエンティスト、ルイス・ムロ・イノニャンはプレスリリースでこう述べている。

「これほど古い建造物が地表近くで発見されるとは予想していませんでした。さらに驚嘆したのは、小さな劇場が見つかったことです。そこには、楽屋や舞台のような場所へと続く階段がありました。ここは、選ばれた人々の前で何らかの儀式を行うために使われたのではないかと思われます」

階段の側面には泥でできた化粧壁があり、鳥をかたどった精巧な図像が彫られていた。古代アンデス文明初期(紀元前2000年から紀元前900年頃)に見られる神話上の鳥に似ていることから、重要性の高い発見とされる。また、大きな壁画も複数見つかっており、そこから採取された顔料を放射性炭素年代測定で分析することで、遺跡の詳細な年代特定につながると期待されている。

イノニャンはこう説明する。

「古代アンデス文明の最初期は、宗教が制度化されていく過程を知るうえで大きな鍵となる時期です。今回の発見は、この地域の初期宗教がどう生まれたかを解明するきっかけになるでしょう。アンデス地域で複雑な信仰体系がどのようにして、またどのような状況下で生まれたかについては、まだほとんど分かっていません。発掘で見つかった遺構は、この地域の人々が建造した初期の宗教的空間に関する手がかりになります」

ペルーで最も有名なインカ帝国の遺跡、マチュピチュは15世紀に建設されているので、出土した建造物の年代はそれより約3500年も早いことになる。インカ文化に先立つモチェ文化やナスカ文化よりも、はるかに古い時代のものと見られる遺跡発見の意義について、イノニャンはこう語った。

「この遺跡を建造した人々が自分たちを何と呼んでいたのか、周囲の地域からどう呼ばれていたのかは明らかではありません。私たちに分かっているのは、彼らがどんな住居や神殿、葬具などを作り出したかだけです。この地の人々は、複雑な宗教体系と宇宙観を創造しました。そして宗教は、政治的権威が出現するうえで重要な要素だったのです」(翻訳:石井佳子)

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