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  • 2024.07.23

パリ・オリンピックの警備強化で強制休業。若手ギャラリーが「ビジネスに対する敬意がない」と反発

パリオリンピックの開会式に合わせて警備が強化されるなか、サン=ジェルマン=デ=プレ地区の通りが閉鎖されたことで、地域にある多くのギャラリーが夏期休業を取り始めた。とはいえ、若手ギャラリーは売上と生計を立てるために営業し続けており、「ビジネスに対する敬意が足りない」と非難している。

パリ・オリンピックの影響で、サンジェルマン・デ・プレ地区のギャラリーは閉鎖された。Photo: Chesnot/Getty Images

パリ市内有数のアートハブであるサン=ジェルマン=デ=プレ地区にある多くのギャラリーは、7月26日から開催されるオリンピックの開会式に向けた警備体制のため、急遽閉鎖するよう言い渡された。

取材に応じたディーラーによると、開会式中にクライアントはギャラリーに行く手段がなく、一般客は展覧会を見ることはできないという。ギャラリーに顧客が入れないことから、近隣のギャラリーのほとんどはすでに夏期休業に入っているようだ。

6月末、パリでは街中に鉄の柵が設置された。この光景に、とくにセーヌ川沿いの住人をはじめとするパリ市民、あるいはニュースをくまなく見ている人は戸惑いを隠せなかった。「なんの知らせもなくフェンスが設置されたのはとても残念」と語るのは、ギャルリー・フォレスト・ド・ラ・ディヴォンヌ のディレクター、ヴィルジニー・ボワシエールだ。ボワシエールによると、設置された柵のせいで歩道を歩く人のスピードが落ちたという。

また、ギャルリー・ジョルジュ・フィリップ&ナタリー・ヴァロワの創業者、ジョルジュ・フィリップ・ヴァロワは、「市内で営業しているギャラリーにとって、まさに悲惨な刑務所のような状況」とため息をつく。彼のギャラリーはオリンピック期間中も営業を続けるという。

このフェンスは、セーヌ河岸付近の管理区域である「グレーゾーン」と呼ばれる場所に一般市民が立ち入らないようにするためのもので、他の地域より遅れて7月18日に設置された。この区域に入る必要がある人は、入場する際に使うQRコードを事前に申請しなければならないが、一部のギャラリーによると事前告知がなかったという。自身の名を冠したギャラリーを創業したローレンス・エスノールもその一人で、「ギャラリーやビジネスに対する敬意が感じられません」と憤りを隠せない様子だ。

フェンスで囲われる前にパリ警視庁は、近隣の店舗やギャラリーに対してこれまで通り営業ができることを保証していたという。たとえQRコードシステムが導入されても、問題は残る。警視庁は、客が特定の美容院やレストラン、ギャラリーに予約を入れればグレーゾーンに入れると発表していたが、それがうまく機能していないのだ。

ケタビ・ボルデ・ギャラリーの創業者兼ディレクターを務めるシャルロット・ケタビによると、木曜日にコレクターとのアポイントメントがあったため手続きをしたにもかかわらず、警察官に立ち入りを拒否されたという。

ケタビはこれを受け、フランス国内のギャラリーをまとめ上げ、当局と対話を行う業界団体「Comité Professionel des Galeries d’Art(CPGA)」の会長をかつて務めたヴァロワに連絡を取った。ヴァロワは、「当局と話をしたが不一致があったというわけではありませんでした。とはいえ、明確な解決策は見つかりませんでした」と言う。CPGAにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

フランスの前首相ガブリエル・アタルは、グレーゾーンの閉鎖によって影響が及ぶ企業に対する補償方法を検討する委員会を設けることを発表していたが、今のところこの委員会はメールアドレスしか設けられていない。ただし、アートギャラリーはレストランやファッションブティックのように、日割り計算できる予算を立てづらいため、この問題はさらに深刻になる。ケタビ・ブルデで起きたような出来事は、美術品販売の不規則な性質だけでなく、顧客の予約がいかに不可欠であるかを示しているのだ。

エスノールが言うように、7月は通常ビジネスにとって 「売り上げが好調な月 」であり、オリンピックによってむしろ「稼ぎどき」と考えるギャラリーは少なくなかった。ケタビは、「私たちギャラリーは、文化オリンピアードに参加するよう勧められました」と言う。さらに、彼女をはじめとするアートディーラーたちは、普段パリに来ない人たちの中でも特に旅費が高くてもパリを訪れる富裕層が、夏季オリンピック大会のために特別にやってくると聞いていた、と付け加えた。つまりトップコレクターたちが多く訪れる可能性があるということだ。

ギャラリーがクライアントを呼び込むことができなければ、一般来場者すら呼び込めなくなってしまう。開会式後、大会期間中に行き来するグレーゾーンの先には、クルマを使えない区域が設定されているため、荷主は入ることができない。これに対してケタビは次のように語る。

「私たちのような若手ギャラリーは、グレーゾーンのせいでクライアントが来なくなってしまいますし、家賃や光熱費も支払えなくなってしまいます」(翻訳:編集部)

from ARTnews

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