バーキンのNFT、展示は認められず。「差押え命令に抵触する可能性は否めない」
アーティストのメイソン・ロスチャイルドが手がけたエルメスのバーキンをモデルとした非代替性トークン(NFT)コレクション「MetaBirkins」は、ブランド側から商標権侵害を訴えられ、差押えが命じられていた。そんな中、ストックホルムのスプリットミュージアムがロスチャイルドに本作の展示を依頼。その顛末は?
ニューヨーク州南部地区地方連邦裁判所の裁判官は、来場者に向けた非代替性トークン(NFT)の説明を美術館側が十分に説明していないことから、ストックホルムのスプリットミュージアムにおける「MetaBirkins」の展示を却下した。このNFTは、エルメスの代名詞とも言えるバッグ、バーキンに、さまざまなパターンの毛皮をまとわせた3D作品だ。
そもそも「MetaBirkins」をめぐっては、2023年2月にエルメスが作者であるメイソン・ロスチャイルド(本名:ソニー・エスティバル)を商標権侵害で訴えており、「MetaBirkins」を芸術とみなすことは難しいという判決が下されていた。これによりロスチャイルドには、エルメスに対して13万3000ドル(約1980万円)の損害賠償の支払いが命じられていたほか、エルメスはロスチャイルドに対して終局的な差押えを要請。これも2023年6月に認められている。
3月13日に提出された文書には、差止命令が出されているにもかかわらず、ロスチャイルドがスプリットミュージアムに「MetaBirkins」の展示可否を問い合わせた経緯が詳細に記されている。
ロスチャイルドによると2023年のクリスマス直前、スプリットミュージアムからアンディ・ウォーホルが実践したアートとビジネスについての企画展の中で、「MetaBirkinsをネットで公開されている画像と同じ要領で」資料として紹介したい、という連絡があったという。
美術館からの依頼には、ロスチャイルドがスプリットミュージアムに対して展示の宣伝や関連グッズの販売など、どういった許可を与えるかが明記されていなかった。このため今回の裁判を務めたジェド・S・ラコフは、証拠に基づき「MetaBirkins」が差押え命令に抵触しないとは「裁判所側では判断できない」と裁定。これ以外にも、ロスチャイルドと博物館が結んだ契約や、施設に許可された範囲を示す契約書や文書も提出されていない。
また判決文には、スプリットミュージアムの学芸員であるミア・サンドバーグと、ロスチャイルドによって専門家証人として召喚されたニューヨークを拠点に置く批評家で、今回のウォーホル展の企画に携わったブレイク・ゴプニックの証言は、ロスチャイルドの要求に対する懸念をさらに高めただけだと記されている。
とりわけゴプニックの証言については「連邦証拠規則の要件にまったく合致していない」と裁判所は判断。昨年2月に判決が下された直後、ゴプニックは、「メイソン・ロスチャイルドのMetaBirkinsに芸術性を見いだせなかった陪審員たち」と題された論説をワシントン・ポストに寄稿しているが、裁判所は、この論説の中でゴプニックが陪審員の評決に「敵意をむき出しにしている」ことを示す文章を二つ取り上げている。
「私たちの文化に内在する商業性を題材に作品を制作した芸術家たち(作品の善し悪しはさておき)と、ロスチャイルドとの間に大差があるとは思えない」
「今回の裁判においては、陪審員たちに期待した私に非があるが、控訴審では陪審員たちがロスチャイルドの作品に下した過ちが正されることを願っている」
いずれにしても裁判官は、ロスチャイルドがスプリットミュージアムに展示されることは、「MetaBirkinsやその関連商品がエルメス、バーキンの商標、トレードドレス(商品のデザインやサービスの全体的なイメージ)に何らかの形で関係していると、一般大衆が思い込んでしまう可能性が高い」という「深い懸念」を表明している。(翻訳:編集部)
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