暴風雨でマーク・ロスコのシーグラム壁画が破損。「全ての祈る人の場」ロスコ・チャペルが無期限閉鎖に
抽象表現主義の代表的作家、マーク・ロスコ最晩年の作品であるロスコ・チャペルと、その貴重な収蔵作品がハリケーン「ベリル」で深刻な被害を受けた。具体的な復旧の見通しは立っていない。
ヒューストンのロスコ・チャペルが、7月8日にテキサス州に上陸したハリケーン「ベリル」で甚大な被害に遭い、閉鎖を余儀なくされた。同ハリケーンは6月末から7月初旬にかけてカリブ海諸国やメキシコ・ユカタン半島の一部でも猛威を振るい、テキサス州を含めた死者は64人。その半数はヒューストン地域の住民で、猛暑の中の停電によって犠牲が拡大した。
暴風雨に襲われたロスコ・チャペルは、マーク・ロスコを代表するシリーズ作品、シーグラム壁画(*1)14点を所蔵しているが、天井と壁の一部が損傷し、壁画のうち3点も破損した。非営利団体の同チャペルは、ヒューストンのアートコレクター、ドミニク&ジョン・デ・メニル夫妻がロスコに依頼して1971年に完成。宗教・宗派を問わず、全ての「祈る人」のために作られた瞑想の空間とされている。
*1 ニューヨークのシーグラムビル内の高級レストランのために、1958年に依頼を受けてロスコが制作した30点のシリーズ。ロンドンのテート・ブリテンが9点、千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館が7点を所蔵している。
チャペルのチーフ・エグゼクティブ・ディレクター、デイヴィッド・レスリーは声明でこう述べている。
「マーク・ロスコの傑作壁画で知られるこのチャペルは、文化と祈りの場として人々に愛されています。その管理責任をこれからも果たしていくことが、私たちの最優先事項です。施設は閉鎖されますが、それによって必要とされる修繕や修復を効果的かつ完璧に行うことができます。建物と壁画作品の修復に全力をあげ、アートやスピリチュアリティ、そして人々の権利のための祈りと思索の場所としての使命を継続していきます」
チャペルの復旧にかかる費用や、再開がいつになるかはまだ明らかになっていない。アートニュースペーパー紙の報道によると、ハリケーン「ベリル」による被害額は「アメリカ国内だけで280億〜320億ドル(約4兆1000億〜4兆7000億円)にのぼると推定され、ヒューストン地域の保険会社は5億〜35億ドル(約3700億〜5200億円)の保険金を支払うことになると見られる」という。(翻訳:石井佳子)
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