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初の女性館長誕生へ。フリーズのヴィクトリア・シダルが英ナショナル・ポートレート・ギャラリーに移籍

国際的アートフェア、フリーズ(Frieze)のディレクターを務めてきたヴィクトリア・シダルが、英ナショナル・ポートレート・ギャラリーの館長に就任する。シダルは、NPGの168年の歴史の中で初の女性館長となる。

ナショナル・ポートレート・ギャラリー初の女性館長への就任が決まったヴィクトリア・シダル。写真:マーク・ラルストン/AFP/Getty Images

ロンドンニューヨークロサンゼルス、ソウルで展開している国際的アートフェア、フリーズ(Frieze)のディレクターを務め、世界のアートマーケットを率いる重要人物と目されてきたヴィクトリア・シダルが、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリー(NPG)の13人目の館長に今秋、就任することが発表された。NPGの168年の歴史の中で女性が館長を務めるのはシダルが初となる。

イギリス有数の非営利芸術団体「スタジオ・ヴォルテール」の理事長を務め、アーティストの発掘や支援を行ってきたシダルだが、公的資金で運営される施設での役職は今回が初めて。2023年、4130万ポンド(2023年6月時点の為替で約75億円)を投じた大規模な改修が成功し、ミュージアム・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされたNPGに、また新しい風が吹く。

シダルは今回の任命を受けて、2024年6月に大英博物館に移った前任のニコラス・カリナンのリーダーシップと改修戦略を賞賛したうえで、次のように語る。

「NPGの歴史の中で、おそらく今が最もエキサイティングなとき。完璧な舞台が整ったので、美術館の学芸員やサポーター、アーティストとともに、同館の新たな章へと踏み出せることに興奮しています」

今年5月、シダルはサザビーズ・インスティテュート・オブ・アートの卒業生に向けたスピーチの中で、自身の経験に触れながら、アート業界におけるジェンダー不均衡について語っていた。

「私がクリスティーズに入社した2000年当時、女性はまだパンツを履いて仕事をすることしか許されていませんでした。また、ロンドンの主要な美術館においてディレクターを務める女性はいませんでした。しかし今では、美術界や文化セクターのトップクラスの役職に多くの女性が就いており、ジェンダー不均衡も少しずつ是正されつつあります」

遡ると、イギリスの美術館・博物館における初の女性館長が誕生したのは1934年。レディ・リーヴァー美術館のクレメンティーナ・ロバートソンだった。そしてマンチェスター美術館のエスメ・ウォード、テート美術館のマリア・バルショー、帝国戦争博物館のダイアン・リースなどがその後に続き、今回NPG初の女性館長としてシダルが就任した。

とはいえ、歴史的にも博物館・美術館における管理職の女性割合はまだ高いとはいえない。その背景には、イギリスにおいて公的資金で運営される施設の館長任命には首相の承認が必要であることが挙げられる。したがってイギリスの保守党政権は、これまで国立博物館・美術館の特定の人事に干渉したり、拒否権を行使しており、それが同国内では長年問題視されてきた。

そんな中でのNPG初の女性館長誕生について、リサ・ナンディ文化・メディア・スポーツ大臣は、「NPGが初の女性館長を迎え、新たな歴史をつくっていくことを喜ばしく思う」とコメント。アート業界におけるジェンダー不均衡の改善が、これを機に加速していくことが期待される。

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