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  • 2024.09.02

少年への性虐待で破産した米ボーイスカウトがコレクション売却へ。ノーマン・ロックウェルの有名作も

組織内で起こった青少年への性虐待の多額な賠償金支払いにより2020年に破産を申請したボーイスカウト・オブ・アメリカ(BSA)が、所有していたアートコレクション321点を全てオークションに出品することが明らかになった。

J.C.ライエンデッカー《Weapons for Liberty》(1917)Photo: Heritage Auctions

ボーイスカウト・オブ・アメリカ(BSA)は、1908年にロバート・ベーデン=パウエルが創設したアメリカ最大級の青少年団体。10歳から18歳を対象に、若者の社会で有用とされる肉体的・精神的スキル向上の手助けを目的とする教育運動「スカウト運動」を実践してきた。

ところが1980年代からは、組織の成人ボランティアによる性虐待が露見し訴訟が相次ぎ、2010年、陪審団はBSAに対し、1980年代に虐待を受けた原告に対して1850万ドル(現在の為替で約27億円)の支払いを命じた。これまでに明らかになった被害者は合計6万4000人にのぼり、アメリカにおける児童虐待事件で1人の原告に対する懲罰的損害賠償金としては最大の事件となった。

これが原因で、BSAは2020年に破産を申請しているが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、性的虐待の被害者への補償金に充てるため、BSAは所有する321点のアート作品を全てオークションに出品する。

コレクションはノーマン・ロックウェル、ウォルト・ディズニー、J.C.ライエンデッカーの作品を含んでおり、約5900万ドル(約86億円)に相当するという。特にノーマン・ロックウェルとボーイスカウトの関係は伝説的で、彼の作品はボーイスカウトのイメージの代名詞となっている。ロックウェルは、ボーイスカウトの雑誌『ボーイズ・ライフ』の表紙を数多く手がけ、ボーイスカウトのビジュアル・ストーリーテラーとしての地位を確固たるものにした。現在、そのコレクションの多くは、オハイオ州ハウランドにあるメディチ美術館で2020年から開催されている展覧会「ノーマン・ロックウェル:アメリカン・スカウト・コレクション」で展示されている。

BSAのコレクションはテキサス州ダラスに本社を置くヘリテージ・オークションに託された。同社は、11月にロックウェルの《Homecoming》(1961)、《To Keep Myself Physically Strong》(1964)などの絵画5点、ライエンデッカーの《Weapons for Liberty》(1917)を含む25点のオークションを開催するという。残りのコレクションは今後2年間にわたって競売を行う予定。

同社のアメリカン・アート部門シニア・ヴァイス・プレジデントであるアビバ・レーマンは、コレクションを「近年市場に出てきた黄金時代のイラストレーションのコレクションの中でも、間違いなく最も重要なコレクションのひとつ」と評価する。今回のオークションに先立って、シカゴやニューヨークなど全米のアート拠点でプレビューやレクチャーを開催するという。

この売却益は、2022年に裁判所によって承認された、性的虐待の被害者に和解金を支払うために設立された24億ドル(約3506億円)の信託の一部となる。それ以外の資金は、主に保険金と地元の協議会や関連団体からの寄付金で賄われる。同信託はまた、総額760万ドル(約11億円)相当の1000以上の石油・ガスの株式やその他の資産を保有している。 

BSAの連邦破産法第11章に基づく破産計画を承認した判事は、性的虐待の被害者に全額が支払われる可能性が高いと述べた。だが2カ月前に、集団訴訟の賠償金支払いのために同章に基づく破産計画を行っていた米製薬大手パデュー・ファーマに対して最高裁判事らが計画を停止する判断を下したとして、BSAも同様に将来的に困難に直面するのではと主張する者もいる

和解信託資金の分配を監督している元裁判官のバーバラ・ハウザーは、ジャーナル紙に対し、「この売却益は、性的虐待の被害者のために使われるという事実に目を向けてほしい。 この美術品の本質的な価値と、売却によって誰が利益を得るかという理由の両方から、人々がこの美術品を手に入れることに興味を持ってくれることを願っている」と話した。(翻訳:編集部)

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