「男女不平等はいまだ根深い」──アノニマス・ワズ・ア・ウーマンが2023年度の受賞者を発表
1996年以来、女性アーティストに700万ドル(現在の為替で約10億円)以上の助成金を授与してきた非営利団体アノニマス・ワズ・ア・ウーマン(Anonymous Was A Woman)が、2023年の助成金受賞者15名を発表した。各受賞者には、それぞれ2万5000ドル(約350万円)の賞金が授与される。
アノニマス・ワズ・ア・ウーマン(Anonymous Was A Woman、以後AWAW)の今年の受賞者15人は、5人の審査員(その名は明かされていない)によって選出された。ブルックリンを拠点とするステファニ・ジェミソン(42歳)を含む5人が40代だが、シカゴで活動するバーバラ・カステン(87歳)など幅広い年齢層から選ばれている。例年は10人に授与しているが、今年はこれに加え、ボストンの匿名の慈善家によるメラキ・アーティスト・アワードが3人、残りの2人は匿名の寄付者の支援により、合計15人に賞が与えられた。
AWAW創設者でアーティストのスーザン・ウンターバーグは、「今年のノミネートは特に印象的でした」と振り返る。
「これからの数年間で、彼女たちの作品が世界でもっと見られるようになることを願っています。受賞者たちは本当に素晴らしいアーティストたち。中には、名前をそれなりに知られた人もいますが、ほとんどが無名と言えます。彼女たちの作品はその実力に反して市場で高く評価されていませんし、その存在を耳にすることも多くありません」
カステンを含め、ニューヨークとカリフォルニア以外に拠点を置くアーティストは、ディンドガ・マッキャノン(フィラデルフィア)とリン・マイヤーズ(ワシントンD.C.)の3人。76歳のマッキャノンは、今回受け取った賞金を、ニューヨークへのスタジオ移転、女性ミュージシャンを称える「ブルース・クィーンズ」プロジェクトの継続、後進アーティスト2人のキャリア支援、インドとガーナ訪問、そして必要な画材の購入に充てる予定だという。
マッキャノンの作品は、2017年の展覧会「We Wanted a Revolution(私たちは革命を望んでいた)」への出品を機に、アート界の注目を集めるようになった。彼女は、今回の受賞は「これまでの55年間の私の闘いを肯定するもの」であり、「賞賛のためにやってきたわけではないとはいえ、まだ息があるうちに認められるのはやはり嬉しい。80歳まであと少しですから」と喜びを語る。
一方、ロサンゼルスを拠点とするアーティスト、カロリーナ・カイセド(45歳)は、自身のプロジェクト「We Place Life at the Center」のために賞金を使う予定だ。このプロジェクトは、ゲッティ財団が展開する「PST ART: Art & Science Collide」の一環で、来年、カリフォルニア州モントレーパークのヴィンセント・プライス・アート・ミュージアムで開催される展覧会とその出版物の中心となるもの。アメリカ大陸のコミュニティが環境正義のためのアクティビズムにどのようにアートを活用しているかを紹介する内容で、バーチャルと対面による集会も多く開催される。カイセドは、「この助成金によって、これらのコミュニティに資金を再配分できることを嬉しく思う」と話す。
彼女はまた、「アノニマス・ワズ・ア・ウーマンに選ばれたことをとても光栄に思います。この助成金と私を本当の意味で結びつけているのは、これまでに築かれてきた女性たちの系譜です。それは私の実践の一部、つまり、非常に私的な系譜の構築とも大いに共鳴するものです」
「アノニマス・ワズ・ア・ウーマン」はこれまで、300人近くの女性アーティストたちを称えてきた。そのリストには、キャリー・メイ・ウィームス(2007年)やセシリア・ビクーニャ(1999年)、ミカリーン・トーマス(2013年)、ジョアン・ゼンメル(2007年)、ベティ・サール(2004年)、センガ・ネングディ(2005年)、リン・ハーシュマン・リーソン(2014年)、故ローラ・アギラール(2000年)など、今日高く評価されるアーティストも多く含まれ、彼女たちの多くがキャリアの重要な時期にこの賞を受賞している。
「こうした賞に応募しているアーティストの皆さん、もし受賞できなかったとしても、どうか諦めないで。評価を得るまでに、ときに何年もの時間を要するでしょう。でも、何かを得るためには、とにかくやり続けなければいけません。私自身もそうでしたし、他の多くのアーティストたちも同じです。何度も応募して、何度も落選してきました。それでも、その先を見なければならないのです」
ウンターバーグは全米芸術基金が個人への助成金を終了する2018年まで、自身がAWAWの創立者であり資金提供者であることを明かしていなかったが、女性アーティストを支援し続けるためには自身のアイデンティティを明かす必要があると考え、公表に至った。ニューヨークタイムズは当時、「女性が女性をサポートすることの重要性を実証した」と称えた。ウンターバーグは、今回の受賞者発表に際して、こうコメントしている。
「残念ながら、男女不平等は根強く残っています。そして多くのアーティストたち、特に女性のアーティストたちは、さらに悪化した状況に置かれ続けています。だからこそ、私たちの活動は依然として緊急かつ必要なことなのです」
AWAW 2023年の受賞者は以下の通り(アルファベット順)
- Carolina Caycedo(カロリーナ・ケイセド)45歳、カリフォルニア
- Liz Collins(リズ・コリンズ)55歳、ニューヨーク
- Steffani Jemison(ステファニ・ジェミソン)、42歳、ニューヨーク
- Stanya Kahn(スターニャ・カーン)、55歳、カリフォルニア
- Barbara Kasten(バーバラ・カステン)、87歳、イリノイ
- Athena LaTocha(アテナ・ラトーチャ)、54歳、ニューヨーク
- Candice Lin(キャンディス・リン)44歳、カリフォルニア
- Suchitra Mattai(スーチトラ・マタイ)50歳、カリフォルニア
- Dindga McCannon(ディンガ・マッキャノン)76歳、Pennsylvania
- linn meyers(リン・マイヤーズ)55歳、ワシントンD.C.
- Erika Ranee(エリカ・ラネー)58歳、ニューヨーク
- Amanda Ross-Ho(アマンダ・ロス=ホ)48歳、カリフォルニア
- Drew Shiflett(ドリュー・シフレット)72歳、ニューヨーク
- Cauleen Smith(カウリーン・スミス)56歳、カリフォルニア
- Saya Woolfalk(サヤ・ウールフォーク)44歳、ニューヨーク
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