ARTnewsJAPAN

ルイーズ・ブルジョワが約54億、デ・クーニングが約4億円。アート・バーゼル2022のプレビューは好調な売れ行き

スイスで毎年開催される国際的アートフェアの最高峰「アート・バーゼル」。2022年6月15日にVIPプレビューが行われ、20世紀の作家から現在活躍中のアーティストまで、さまざまな作品が順調に売れたようだ。

アート・バーゼルの会場風景(2022年5月) Courtesy Art Basel

会場のメッセ・バーゼルには289軒のギャラリーが集まり、デビッド・ツヴィルナーやハウザー&ワースなどのメガディーラーが、それぞれ選りすぐりの作品を展示。多くの作品が6桁万ドル台の半ばから後半で取引されたという。

有力ディーラーの合併で最近誕生したニューヨークのギャラリー、LGDRの共同設立者ドミニク・レヴィは、プレビューでの販売動向について「慎重さはありつつも、活気に満ちていた」と述べている。

では、今年のアート・バーゼルのプレビューで、どんな作品が売れたか、その価格帯を紹介していこう(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。


1. Louise Bourgeois / Hauser & Wirth(ルイーズ・ブルジョワ/ハウザー&ワース)


Photo: Art: ©The Easton Foundation/VAGA at ARS, NY

「ギャラリーズ」セクションに参加したハウザー&ワースのブースで存在感を放っていたのが、ルイーズ・ブルジョワのクモの彫刻だ。金属製で、高さは約3メートルある。ブルジョワは、立像や壁に飾れる巨大な金属のクモをいくつも制作しているが、この作品もそのうちの1つ。

ブルジョワが遺した作品を扱うハウザー&ワース(本拠地:スイス)は、フェア初日にこの彫刻が4000万ドルで売れたとしている。その後、フェア参加者から寄せられた情報によると、この巨大な作品はギャラリー創設者の1人であるウルスラ・ハウザーが1990年代から所蔵していたものだという。

このほか、アルメニア系アメリカ人の画家、アーシル・ゴーキーが1948年に描いた《The Betrothal(婚約)》(紙に鉛筆と木炭)が550万ドルで、マーク・ブラッドフォード、フィリップ・ガストン、フランク・ボウリング、フランシス・ピカビアの作品が300万ドルを超える価格で売れている。


2. Félix González-Torres / David Zwirner(フェリックス・ゴンザレス=トレス/デビッド・ツヴィルナー)

メガギャラリー、デビッド・ツヴィルナーのブースでは、評価が定まって久しい著名アーティストの作品が並び、1990年代の作品が高額で取引された。最高値で売れたのは、キューバ系アメリカ人作家でアクティビストでもあったフェリックス・ゴンザレス=トレスの作品だ。96年に亡くなったゴンザレス=トレスの作品は、2017年からツヴィルナーが扱っている。42個の電球が連なる1本の電気コードが天井の釘からぶら下がった光の彫刻、《Untitled (Tim Hotel)(無題〈ティム・ホテル〉)》(1992)は、アジアのコレクションが1250万ドルで購入した。

また、現在ヴェネチアのパラッツォ・グラッシで展覧会が開かれているマルレーネ・デュマスの絵画2点が出品され、1994年の作品が850万ドル、2013年の作品が260万ドルで売れたという。ギャラリーによると、それぞれヨーロッパの「主要な」コレクションに加えられるとのことだ。

その他、オスカー・ムリーリョ、ジョーダン・ウルフソン、スティーブン・シアラー、エリザベス・ペイトン、アリス・ニール、ヨゼフ・アルバースの作品が35万ドルから150万ドルで売れている。


3. Willem de Kooning / LDGR(ウィレム・デ・クーニング/LDGR)

LGDRは、ドミニク・レヴィ、ブレット・ゴーヴィ、アマリア・ダヤン、ジャンヌ・グリーンバーグ・ロハティンの4人の有力ディーラーが、2021年にニューヨークで共同設立したギャラリーだ。そのブースで最も高価な作品の1つは、アメリカの抽象表現主義作家ウィレム・デ・クーニングによるもの。1970年代に紙に描いた絵をデ・クーニング自身がカンバスに張ったこの作品は、希望価格の290万ドルに近い金額で売れたという。

そのほかLGDRで売却済みとなっていたのは、ピエール・スーラージュ、レオノール・フィニ、キース・ヘリング、ギュンター・ユッカーなど、数十年前に最盛期を迎えたアーティストの作品だ。また、近年知名度を上げているミカリーン・トーマス、デリック・アダムス、マグダレン・オドゥンドなどの作品も売れていた。


4. Lynda Benglis / Xavier Hufkens(リンダ・ベングリス/ザビエル・ハフケンス)

ブリュッセルのギャラリー、ザビエル・ハフケンスが出展した中でも目立っていたのが、リンダ・ベングリスによるゴールデンブロンズの彫刻《Power Tower(パワー・タワー)》(2019)で、フェア初日に120万ドルで売れたという。1960年代に、液状のラテックスや金属を流してできた自由なフォルムを彫刻作品として発表し、注目されるようになったベングリスは、同世代のミニマリストたちとは一線を画した作風で知られる。

同ギャラリーでは、トーマス・ハウシーゴやトレイシー・エミンの彫刻およびネオン作品、ティエリー・デ・コルディエ、マッカーサー・ビニオン、ニコラ・パーティ、レスリー・ヴァンス、セイヤー・ゴメス、マット・コナーズの絵画が5万2000ドルから50万ドルで売れている。


5. Robert Rauschenberg / Thaddaeus Ropac(ロバート・ラウシェンバーグ/タデウス・ロパック)

ロンドン、パリ、ザルツブルク、ソウルに拠点を持つタデウス・ロパックのブースで最も高く売れた作品に、ロバート・ラウシェンバーグが1982年と85年に制作した2点の絵画がある。

85年制作のシルクスクリーンのコラージュ作品《Street Contract / ROCI MEXICO(ストリート・コントラクト/ROCI メキシコ)》は、350万ドルで売れたという。ラウシェンバーグは85年にメキシコシティで文化交流プロジェクトを立ち上げているが、この作品はそのために作った絵画とレリーフのシリーズの1つ。82年の作品《All Abordello Doze 2 (Japanese Recreational Claywork)(売春宿での集まり まどろみ 2〈ジャパニーズ・リクリエーショナル・クレイワーク〉)》は、ベッドで絡み合う2人の裸婦像に日本の文字や静物の図像を重ねたもので、150万ドルで購入された。

このほか、スターテヴァント、マーサ・ユングヴィルト、ロイ・リキテンスタインの作品も売れていた。


6. Hannah Wilke / Alison Jacques(ハンナ・ウィルケ/アリソン・ジャック)

ロンドンを拠点とするアリソン・ジャックは、女性アーティストを中心とした新進作家を扱う中堅ギャラリーだ。同ギャラリーの出展作品の中で最も高く売れたのが、さまざまな分野で挑発的な作品を発表した米国人作家、ハンナ・ウィルケの1976年の彫刻だ。《Rosebud(ローズバッド)》と名付けられたこの作品は、肌色のラテックスで作ったシートを重ねたもので、ウィルケが手掛けた多くの作品と同じように人間の体を暗示している。アリソン・ジャックはこの作品を、大手ギャラリーに引けを取らない150万ドルという金額で売っている。

そのほか、ソフィー・バーバー、マリア・バルトゥソヴァ、シーラ・ヒックス、エリカ・ベルズッティ、グラハム・リトル、ロバート・メイプルソープなどの作品が、3万5000ドルから16万ドルまでの価格で購入された。


7. William Copley / Kasmin(ウィリアム・コプリー/カスミン)

カスミンは「フィーチャー」セクションで、米国人アーティスト、ウィリアム・N・コプリーのソロブースを出展。10年にわたるパリ滞在中に彼が制作した絵画や彫刻を展示した。独学でアーティストになったコプリーが、これらの作品を制作した1950〜60年代は、風刺と性的なイメージが溢れる独自のスタイルを確立していった重要な時期だ。51年にロサンゼルスからパリに移り住んだコプリーは、その後ヨーロッパで流行していたシュルレアリスム風のスタイルと、米国のポップアートを融合した作品を制作している。

カスミンは、フェア初日にこのブースから3点を、30万ドルから42万5000ドルまでの価格で売り上げている。そのうちの1点は、57年に描かれた《Fête Foraine(遊園地)》という作品で、コプリーが影響を受けた前衛芸術作家たちと交流を深めた北フランスの町、ロンポンを題材にしたものだ。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月15日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい