ARTnewsJAPAN

タイラー・ミッチェルのガゴシアン所属が決定。パリ・フォトでリチャード・アヴェドンとの2人展を開催

2019年、史上最年少の若さでUS版『VOGUE』の表紙でビヨンセを撮影し、瞬く間にスターダムを上り詰めた若き写真家タイラー・ミッチェルが、ガゴシアンに所属することが決まった。

ガゴシアンへの所属が決まったタイラー・ミッチェル。2024年、自身のスタジオで撮影したセルフポートレート。Photo: ©Tyler Mitchell/Courtesy of the artist and Gagosian

世界に20近い拠点を持つガゴシアンの所属アーティストに、現在最も高く評価されている写真家の一人であるタイラー・ミッチェルが加わることになった。来月のパリ・フォトでのリチャード・アヴェドンとミッチェルの2人展が、所属後初のプロジェクトとなる。また来春には、ニューヨークでミッチェルの個展が開催される予定だ。

ミッチェルが世界的名声を獲得するきっかけとなったのは、2019年、当時23歳のときにUS版『VOGUE』の表紙でビヨンセを撮影したこと。現在29歳のミッチェルは、ガゴシアンの所属アーティストの中でも最年少の1人だ。

野心的なアーティストには野心的なギャラリーが必要

ガゴシアンのディレクターであるアントワン・サージェントはミッチェル所属の発表に際し、US版ARTnewsのインタビューにこう答えている。

「私たちは常に、自分のメディアを再定義し続けているアーティストに注目しています。野心的なアイデアにあふれるミッチェルをサポートするには、われわれのような野心的なギャラリーが必要なのです」

ガゴシアンがミッチェルと初めてコラボレーションしたのは2022年。同ギャラリーのロンドン支店で個展を開催し、同年のフリーズ・マスターズで彼のコミッションワークをサポートした。この作品でかれは、自身の作品で繰り返し題材としてきた黒人の若者を牧歌的あるいは家という親密な環境で撮影している。

10代の頃からソーシャルメディアに写真や映像作品を投稿し、注目を集めるようになったミッチェルは、美術館やギャラリーでの展示よりも広告キャンペーンなどのコマーシャルワークで知られているかもしれない。しかし本人は、作品とコマーシャルワークの世界に隔たりはないと考えているようだ。かれはこう語る。

「イメージは私たちの日常生活、雑誌、広告の中に存在し、ギャラリーの中にも存在します。その流動性こそ、私がイメージに惹かれる理由であり、それらの間を常に可能な限り高いレベルで行き来したい。これは、私の作品制作においてとても大切なことなのです」

タイラー・ミッチェル《Georgia Hillside (Redlining)》(2021)Photo Prudence Cuming Associates Ltd Art: ©Tyler Mitchell/Courtesy Gagosian/Los Angeles County Museum of Art

人間性、優しさ、喜びをもたらすイメージ

サージェントがミッチェルに初めて会ったのは、10年近く前、写真家がニューヨーク大学ティッシュ芸術大学院を卒業した頃だった。サージェントは、「彼が自分のやりたいことについて語る姿、アメリカ南部について語る姿、美について語る姿、ファッションやポップカルチャーに対する興味や関心の広さに魅了されました」と明かす。

ミッチェルもまたサージェントとの関係を振り返り、「アントワンと私は、その長い友情の中で、私がアートとの対話の中で写真家である自分がどんな作品に挑戦したいのか、そこに何を求めるのか、常に対話してきました」と話す。

2人の友情、そしてコラボレーションの根幹にあるのは、「ミッチェル作品のテーマに対する共通のコミットメント」であるとサージェントは説明する。「ここ数年、私たちは、黒人の美やファッション、黒人の若者の物語を伝えることの力と可能性を実感してきました。また、文化の中に身を置く者の視点から、そうしたイメージを通じて写真に人間性、優しさ、喜びをもたらすことで、絆を深めてきました」

出会いから現在までの間に、サージェントは多くのプロジェクトでミッチェル作品を取り上げてきた。特に2019年に開催された展覧会の図録『The New Black Vanguard: Photography Between Art and Fashionでは、表紙にミッチェルの作品を採用。また、サージェントが企画した2021年のロンドンでの展示「Social Works II」にも、ミッチェルは参加している。

コマーシャルワークだけでなく、ミッチェルは、インターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー(2020-21年)、クリーブランド美術館(2022年)、サバンナ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン美術館(2023年)など、多くの美術機関で個展や二人展を開催してきた。現在もアトランタのハイ美術館で個展を開催中で、ヨーロッパでは今週から、ヘルシンキのフィンランド写真美術館で5会場にわたる展覧会が始まる。

また、ニューヨーク近代美術館(MoMA)は今年かれの5点の作品を収蔵したほか、ハーレムのスタジオ美術館、ロサンゼルス郡美術館、ボストン美術館、デトロイト美術館、アトランタのハイ美術館、ワシントンのナショナル・ポートレート・ギャラリーにも所蔵されている。さらに、「Superfine: Tailoring Black Style」がテーマの来春のMETガラ(メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートが主催するチャリティイベントと展覧会)で、ミッチェルは展覧会図録用のイメージも制作することになっている。

タイラー・ミッチェル《The Hewitt Family》(2021)Photo Prudence Cuming Associates Ltd Art: ©Tyler Mitchell/Courtesy Gagosian/High Museum of Art, Atlanta

アヴェドンとミッチェルの共通点

話をパリ・フォトに戻そう。ここで計画されているアヴェドンとミッチェルのブースでは、1960年代のアヴェドン作品と、ここ数年のミッチェル作品が展示される予定だ。これは、ヒルトン・アルス、イマン、ニコラ・エルニ、クロエ・セヴィニーなど150人以上の人々が選んだアヴェドンのイメージと共に写真家の生誕100周年を記念した2023年の展覧会「Avedon 100」に基づいた内容。ミッチェルはこの企画のために、アヴェドンが1946年に撮影した、鏡に映るアヴェドン自身とジェームズ・ボールドウィンの作品を選んでいる。

「私はアヴェドンを、セレブリティのポートレイトやファッション写真家から、本格的かつ本質的な社会派アーティストへと進化した人として尊敬しています」とミッチェルは言う。サッチェルはこう続ける。

「アヴェドンが20世紀、どのようにしてコマーシャルとアートの空間を行き来していたのか。そしてミッチェルが今、どんなふうにこれらの空間を移動しているのか。今回の展示は、その世代を超えた対話であり、それは2人がガゴシアン所属作家であるからこそ可能な試みなのです」

ガゴシアンの所属作家の中には、アヴェドン、ディアナ・ローソン、ナン・ゴールディン、ロー・エスリッジなど、「現代を代表する写真家」がすでに名を連ねている。ミッチェルも「その系譜に連なるアーティスト」であるとサージェントは付け加える。「ミッチェルが実践してきたようなことをやってきたアーティストは、これまで存在しません。彼は常に、自身の独自の空間と現代アート、そして写真の世界を拡張し続けているのです」

from ARTnews

あわせて読みたい