今週末に見たいアートイベントTOP5: アンゼルム・キーファーの大作2点が東京で公開、ジョーン・ジョナスの55年に渡る日本との繋がりを辿る

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

《Creature 2025 1》2025、photo by Hiroshi Noguchi
イ・ビョンチャン個展「アリの消失点」(アートフロントギャラリー)より、《Creature 2025 1》2025、photo by Hiroshi Noguchi

1. みんぱく創設50周年記念企画展「点と線の美学——アラビア書道の軌跡」(国立民族学博物館)

クーフィ―書体で書かれた神の美称 写真:国立民族学博物館 提供
イザベラ・ウフマン作 「メタモルフォシス」 2021年 写真:国立民族学博物館 提供
「雄鶏印のロウソク」のラベル、エジプト、1960年代(推定)  写真:国立民族学博物館 提供

3つの視点で「アラビア書道」の魅力に迫る

アラビア書道はアラビア文字を美しく書く手法を追求する芸術。10世紀のバグダードで体系化され、主にイスラーム建築の装飾やクルアーン写本に用いられてきた。現代では中東・イスラーム世界に限らず欧米や日本でも作品が制作されている。

本展の見どころは3点ある。1つは社会人類学×メディア史という視点から、コミュニケーションのデジタル化が進む今日において手で文字を書くことの社会的役割の変容をグローバルな経験として探求する。次に、古典書体とヴィジュアルアートを組み合わせた独自のスタイルにより世界の第一線で活躍する日本人、本田孝一の大作《人類のピラミッド》と《青の方舟》などの作品展示、3つめは20世紀の印刷技術の向上に伴い、新聞の題字、広告や商品ラベルなど「読める」書としてのデザインが書家の仕事となったことに対するグラフィックデザインとしてのアラビア書道を追求する。

みんぱく創設50周年記念企画展「点と線の美学——アラビア書道の軌跡」
会期:3月13日(木)~6月17日(火)
場所:国立民族学博物館(大阪府吹田市千里万博公園10-1)
時間:10:00~17:00(入館は30分前まで)
休館日:水曜


2. アンゼルム・キーファー個展 Two Paintings(ファーガス・マカフリー東京)

Installation views of Anselm Kiefer: Two Paintings, Fergus McCaffrey Tokyo, 2025. Photo: Ryuichi Maruo; Courtesy of Fergus McCaffrey.
Installation views of Anselm Kiefer: Two Paintings, Fergus McCaffrey Tokyo, 2025. Photo: Ryuichi Maruo; Courtesy of Fergus McCaffrey.

2つの大作が東京の展示空間で呼応

京都二条城での「アンゼルム・キーファー:ソラリス」展(6月22日まで)の準備期間、アンゼルム・キーファーは特に2つの絵画《E. T. A. ホフマンのために》(2015-2024)と《er hexte eine Schlange aus dem Wasser》(2016)の呼応に強く心を惹かれたという。本展は、この2点の大作を自然光が差し込むファーガス・マカフリー東京の展示空間で披露する。

2点は、静かな水面に映る牧歌的な風景と、蛇の彫刻を金、ウルトラマリン、黄土色などの色彩で描いている。日本文化において蛇は知恵、富、変容、再生の象徴であり、神々の使者ともされている。干支の「蛇」にあたる今年は、この2点が初めて同時に公開されるのにふさわしい年と言えるだろう。キーファーの表現の深淵に触れたい人にとって見逃せない機会だ。

アンゼルム・キーファー個展 Two Paintings
会期:4月2日(水)~ 7月12日(土)
場所:ファーガス・マカフリー東京(東京都港区北青山3-5-9)
時間:11:00~19:00
休館日:日月祝


3. 米澤柊「泳ぐ目たち」(SNOW Contemporary)

米澤柊「泳ぐ目」2024年 ©︎Shu Yonezawa, Courtesy of SNOW Contemporary
米澤柊「ただ漂ってる」2025年 ©︎Shu Yonezawa, Courtesy of SNOW Contemporary

アニメの残像から「生命の循環」を考察

美術家・アニメーターとして活躍する若手作家、米澤柊の個展。今年日本で初開催となるLVMH メティエ・ダールのアーティスト・イン・レジデンスプログラムにも選出された、いま最も注目度が高いアーティストの1人だ。

本展「泳ぐ目たち」は、米澤が2021年から取り組むアニメーションにおける残像表現の技法「オバケ」に着目した「オバケのスクリーンショット」シリーズから、新作のオリジナル作品9点、プリント作品4点、ドローイング作品14点などで構成される。アニメーションにおいての「オバケ」とは、「生」を与えるという残像表現の技法であるが、言葉としては「死」を想起させるという、相対する「生と死」のイメージが内包されている。これは、作家自身の生命の循環の不思議や生と死についての根源的な問いにも深く繋がっている。米澤が魂と身体、生命の進化を「見る」ことの 進化という視点から、その先にある身体のかたちを探る。

米澤柊「泳ぐ目たち」
会期:4月18日(金) ~ 5月31日(土)
場所:SNOW Contemporary(東京都港区西麻布2-13-12 早野ビル404)
時間:13:00 ~ 19:00
休館日:日~火、祝


4. イ・ビョンチャン個展「アリの消失点」(アートフロントギャラリー)

「アリの消失点」展示風景 photo by Hiroshi Nouguchi (1)
ビデオ作品《TAL 2025, Whispering Words Consume Me, Will I Still Be Myself》2025
《Creature 2025 1》2025、photo by Hiroshi Noguchi

華やかな作品で表す大量生産・大量消費へのアンチテーゼ

韓国の現代美術アーティスト、イ・ビョンチャンの日本初となる個展。イはこれまで、大量生産・大量消費されるプラスチック製品を使った立体作品や、都市の質量を波動に変形させたサウンドで構成する作品を制作してきた。

大きなガラス窓があり、まるでショーウィンドウのように作品を展示できる同ギャラリーでは、商品が消費される瞬間をパース線が集約する「消失点」と見立て、その消失点へと集まっていく「アリ」たちの姿を捉えた作品を発表している。「アリ」とは、韓国で「普通の人々」や「群衆」を指す。ギャラリー内には壁面に凹面鏡が設置され、その前には有機的なフォルムのオブジェが配置される。呼吸するようにわずかに動くこのオブジェは、凹面鏡の中で歪み、変形した姿を映し出す。

イ・ビョンチャン個展「アリの消失点」
会期:4月26日(土)~ 5月25日(日)
場所:アートフロントギャラリー(東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA棟)
時間:12:00~19:00(土日は11:00~17:00)
休館日:月火


5. ジョーン・ジョナス:「Drawings」(Pace ギャラリー)

ドローイングで振り返る日本との55年に渡る繋がり

1936年ニューヨーク生まれのジョーン・ジョナスは、彫刻家として研鑽を積み、インスタレーションやドローイングなど多分野にまたがる実践を重ねてきたが、現在では、ビデオ・アートやパフォーマンス・アートの中心的存在となっている。ジョナスの長年の友人でもあるアーティスト、アダム・ペンドルトンのキュレーションによる本展は、ジョナスの作家活動におけるドローイングの重要性と、1970年の初来日以来続く日本との繋がりにスポットを当てる。

ジョナスは1970年に日本を訪れた際、ポータブル・ビデオカメラ、ソニー・ポータパックを購入した。その後、ニューヨークに戻り、初のビデオパフォーマンス作品《Organic Honey's Visual Telepathy》と《Vertical Roll》(共に1972年)を制作し、知覚、自我、アイデンティティ、人間の身体とその記録されたイメージについてさまざまな革新的な問いを投げかけた。本展では、ペンドルトンが選出した1970年代から2010年代にかけて制作されたドローイングのほか、70年代の旅で初めて出会った日本の和紙に、ジョナスの身体の運動を物質的な痕跡として記録する「Body Drawings」シリーズからの作品など約80点が展示される。

ジョーン・ジョナス:「Drawings」
会期:5月17日(土)~ 7月3日(木)
場所:Pace ギャラリー(東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA 1-2F)
時間:10:00~20:00(日曜は18:00から、火~土は19:00からアポイントメント制)
休館日:月曜

あわせて読みたい