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ドクメンタ15で日本とパレスチナの関係を描く過激派映画に上映中止要求。主催者は「検閲」と抗議

ドイツのカッセルで9月25日まで開催中の国際芸術祭、ドクメンタ15。5年に1度の開催だが、今回はオープニング前から反ユダヤ主義をめぐる論争に揺れ続けた。そして今度は映画の上映中止問題が勃発している。

ドクメンタ15で展示されたタリンパディの作品 Photo Uwe Zucchi/dpa/picture alliance via Getty Images

ドクメンタ15の展示内容を監督する諮問委員会は、アーティストコレクティブ(集団)、サブバーシブ・フィルムが手がけた映画の上映中止を求めた。主催者側はこれに対して、中止要求は「検閲」だと批判している。同コレクティブは、ヨルダン川西岸地区のラマラやベルギーのブリュッセルに拠点を置いている。

問題になっているプロジェクト「Tokyo Reels(トウキョウリールズ)」は、1960年代から80年代にかけて制作された、日本とパレスチナの関係がテーマの未公開映画を修復して上映するもの。サブバーシブ・フィルムはこのプロジェクトについて、「さまざまな国における過激派映画の不完全なアーカイブ」を発掘し、修復し、公開することについて考える試みだとドクメンタの公式ウェブサイトで説明している。

これに対し、反ユダヤ主義の疑いが持たれている作品を調査するために任命された文化関連の専門家7人からなる諮問委員会は、一連の映画の上映を「早急に」中止するよう求める報告書を発表。作品が「反ユダヤ主義・反シオニズム」的であるという疑いに加え、プロジェクト全体についてのアーティストの解説が「無批判な議論により、映像素材に含まれるイスラエルへのヘイトとテロ賛美を正当化している」と指摘した。

諮問委員会はまた、映画の中でイスラエルの形容として「ファシスト」という語が使われていることを「反ユダヤ主義」だとし、「イスラエルをナチスドイツと同一視している」とまで述べている。

この委員会は、ドクメンタ15で続いている反ユダヤ主義批判について真相を究明するために、カッセル市とヘッセン州によって8月初旬に設置された。その最新の声明では、ドクメンタ15が、アラブ・イスラエル紛争をテーマとする作品の展示構成において「反イスラエルの姿勢」にあると述べている。

さらに、委員会はサブバーシブ・フィルムの問題に関し、一般上映の「再開の可能性」を検討するためには、「映像にプロパガンダ的性質や反ユダヤ主義の要素があることを明確にし、歴史的な誤認を正す」という方法で作品の文脈を修正することが必要だとした。

委員会の報告書は、一連の映画のプロデューサーが日本の映画監督、足立正生と協力していることも批判。足立は、70年代にパレスチナの軍事抵抗を支援した日本赤軍の元メンバーだ。

一方、ドクメンタ15の主催者は、65人の署名を添えた公開書簡を発表した。この中で、疑惑を全面否定し、委員会による調査結果の根拠となる方法論が不明確だと反論。「検閲を拒否する立場から、諮問委員会が設立されたことに断固反対だった」と述べている。また、「委員会による予備報告書の主張は受け入れない」と書簡は続き、調査結果は「ヨーロッパ中心主義に基づく優越感」に起因すると主張した。

サブバーシブ・フィルムの代表は、現時点でARTnewsの取材に応じていない。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月12日に掲載されました。元記事はこちら

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