アイ・ウェイウェイ、言論の自由が失われつつある西側を「まるで中国のよう」と批判
中国政府に批判的な活動で知られる反体制アーティスト、艾未未(アイ・ウェイウェイ)が、世界中で問題になっている言論の自由について語った。スペインのセゴビアで毎年開催されている国際文学祭、ヘイ・フェスティバルでの発言を紹介しよう。
英エコノミスト誌のエグゼクティブ・エディター、アン・マケルヴォイとオンラインで対談したアイは、体制批判や人権、言論の自由についてじっくり語ったが、その矛先は中国だけにとどまらなかった。2015年の欧州難民危機をテーマに作品を制作したアイに対し、マケルヴォイは西側諸国でも言論の自由の問題が起きていたのではないかと尋ねている。すると、こんな答えが返ってきた。
「既存の価値観に疑問を持ち、揺るぎないものを揺るがすという人間にとって極めて本質的な能力が西側世界でも消えつつある。自分とは違う論点や意見を聞かないという態度は、まるで中国のようだ」
ヘイ・フェスティバルでの対談は、最近出版されたアイの回顧録『1,000 Years of Joys and Sorrows(「千年の喜びと悲しみ」)』のプレスツアーの一環として行われた。この回顧録の大部分は、アイの父、有名詩人の艾青(アイ・チン)のことに割かれている。やはり中国政府から反体制派の烙印を押され、追放されたアイ・チンとともに中国の辺境の地で育ったアイは、共同トイレの掃除などあらゆる種類の重労働を強いられ、詩を発表することを禁じられた父親の姿を回想している。それでもアイは反抗し続けたのだ。
「私は中国に戻るべきなのかもしれない」とアイは言う。「中国政府は再び私の姿を見えなくするか、私の声が聞こえないようにすることしかできない。私の存在を消し去ることはできないのだ。もし私の存在が彼らにそのような決断をさせるなら、そのことを私はとても誇りに思うだろう」
90年代初頭、弾圧される可能性があることを知りながらなぜ中国に戻ることを決めたのか、マケルヴォイにその理由を尋ねられたアイは、80年代のニューヨークで生きることがいかに危険で、英語を話し、生計を立てることが困難だったかを語っている。「そのうち、プロのアーティストとして、アート制作だけで生きていくことは不可能だと思い始めた」
時を同じくして父が病気であると知ったアイは、10年以上過ごしたアメリカを後に帰国する。「これが、二度と戻らないと心に決めた国に戻る時の最後の言い訳だった」。帰国すれば刑務所に入れられる可能性がある。自分はそれに耐えうるのかと自問したアイは、結局帰国を決めた。難しい決断だったが、一方で再び中国語で自らの考えを自由に表現できるのは何物にも代えがたかったという。
しかし、アーティストは自由を守るために高すぎる代償を払わされているのではないかという質問へのアイの答えは、矛盾をはらんでいるように思えた。
「社会正義を求める代償が高すぎるとは思わない。個人の自由は人生の目標なのだから、高すぎる代価ではない。しかし、1人の人間として考えたとき、殺される、あるいは永久に出られない牢獄に入れられるとすれば、その代償は高すぎる」(翻訳:山越紀子)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月19日に掲載されました。元記事はこちら。