イスラエル建国支持を宣言したイギリス元首相の肖像画を活動家が攻撃。軍事産業への投資にも抗議か
3月8日にケンブリッジ大学で、1948年のイスラエル建国のきっかけを作ったとされるイギリスの元首相、バルフォア卿の肖像画に赤いスプレーがかけられ、複数回にわたり切りつけられる事件が起きた。
1917年のバルフォア宣言で知られるアーサー・バルフォアの肖像画は、フィリップ・アレクシウス・ド・ラースローによる1914年の作品で、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに収蔵されている。イスラエル建国を支持した同宣言は、75万人にのぼるパレスチナ人の強制退去を引き起こし、今に至るパレスチナ問題につながった。
肖像画を攻撃したのはイギリスの親パレスチナ団体「パレスチナ・アクション」の活動家。アートアタックの様子を公開したX(旧ツイッター)への動画投稿には、次のように書かれている。
「パレスチナ・アクションは、バルフォア卿の肖像画にスプレーをかけて切り裂いた。(中略)1917年のバルフォア宣言は、パレスチナ人からの土地収奪を約し、民族浄化を開始するものだった。イギリスにそんな権限はなかったはずだ」
バルフォア宣言は、20世紀の歴史の中で最も物議を醸した文書の1つ。パレスチナにおける「ユダヤ人のための民族的郷土(ナショナル・ホーム)」の設立に賛意を示すイギリスによる公約で、当時のバルフォア外相からイギリスのユダヤ系貴族院議員ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド男爵に宛てた書簡の形で表明されている。これが土台となり、1920年にイギリス委任統治領パレスチナが承認され、のちのイスラエル建国への道を開いた。
同宣言には、「パレスチナに現存する非ユダヤ人社会」の市民的および宗教的諸権利を侵害しないという条件が付けられていたが、パレスチナ人は当初から宣言への批判を続けてきた。一方イギリス政府は、2017年の宣言100周年に際し、パレスチナ・アラブ人の「政治的権利の保護」と「自決権」を容認すべきと述べている。
また、肖像画が飾られていたケンブリッジ大学にもイスラエルとの関係がある。この2月、中東関係のニュースを発信するミドル・イースト・アイで、イムラン・ムラ記者がケンブリッジ大学に関する調査報道を発表した。それによると、同大学はこれまでイスラエルに関係する複数の防衛関連企業に数億円の投資を行っており、昨年トリニティ・カレッジは、イスラエルの軍事産業大手エルビット・システムズに約8万ドル(直近の為替レートで約1200万円)を投資したという。ムラは肖像画が攻撃されたことに触れたXへの投稿で、改めてこの記事について伝えている。
事件に先立つ2月28日、パレスチナ人のための国際司法センター(ICJP)はトリニティ・カレッジ宛に法的通知書を発行。エルビット・システムへの投資により、同大学の幹部や株主が「イスラエルの戦争犯罪や人道に対する罪に加担する恐れがある」と警告していた。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews