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ルーブル美術館の前館長、歴史的遺物の不正取引に関与した疑いで事情聴取を受ける

ルーブル美術館(パリ)の前館長、ジャン=リュック・マルティネズが、歴史的遺物の不正取引に関与した疑いで、フランス当局から事情聴取を受けた。捜査の焦点は、ニューヨークのメトロポリタン美術館とアラブ首長国連邦のルーブル・アブダビに売却された遺物とされる。

ルーブル美術館のジャン=リュック・マルティネズ前館長。2020年6月に撮影 AP Photo/Christophe Ena

5月26日付のアートニュースペーパー紙によると、2013年から21年までルーブル美術館館長を務めたマルティネズは、23日に当局の聴取を受けたという。問題となっている遺物の売却先の1つ、ルーブル・アブダビは、アラブ首長国連邦とフランスの共同協定により、37年までルーブルの名称をライセンス供与されている。

マルティネズは21年に館長を退き、後任として同年9月にローランス・デ・カールがルーブル初の女性館長として就任した。マルティネズ前館長は在任中の最後の1年間、フランス政府が契約更新を行うかどうかが定まらず、3期目の就任に向けたアピール活動のため自らメディアを回るなどして物議を醸している。

マルティネズのほか、エジプト美術の専門家2人が文化財不正取引取締本部(OCBC)に事情聴取されたことを捜査筋が明かしたと、アートニュースペーパー紙は報じている。その2人とは、ルーブル美術館エジプト部門責任者のヴァンサン・ロンドと、レビュー・デジプトロジー(エジブト学レビュー)誌の編集に携わるエジプト学者のオリビエ・ペルドだ。

マルティネズとペルドは、不正行為を否定していると伝えられている。一方、ルーブル美術館はARTnewsの取材に対してコメントを差し控え、ロンドの声明も発表していない。

現在進行中の捜査の一環として、3月にハンブルクを拠点とする古美術のディーラー、ロベン・ディブが身柄を拘束され、その後、組織的詐欺と資金洗浄の罪で起訴。20年には、パリに拠点を置く同ディーラーのクリストフ・クニキが逮捕され、犯罪共謀、組織的詐欺、資金洗浄の罪で起訴された。両名とも不正を否定している。

クニキは17年、メトロポリタン美術館(MET)に金色の棺を350万ユーロで売却。調査の結果、棺が1971年にエジプトから合法的に輸出されたとする内容の偽造書類がMETに渡されていたことが判明し、同館は19年に棺をエジプトに返還した。その後の調査で、ディブが書類の偽造に関与していたことも発覚している。

METの広報担当者はARTnewsへのメールで、「(METは)国際犯罪組織の不正により被害を被った。現在複数の司法管轄区で捜査が進行中で、全面的な協力を今後も続ける」と説明。

今回の、棺の取得に関する内部調査を受け、「文書の信ぴょう性を検証する厳格な基準を設けるため、所蔵品の管理方針を見直し、遺物の取得、文書の検証、出所国との接触を確認する調査に関して、新たな内部ガイドラインを発行した」と述べている。

フランス当局は、クニキとディブがMETまたはルーブル・アブダビに総額約5000万ユーロで売却した他の9点についても捜査を行っている。

売却先にパリのルーブル美術館は入っていないが、ルーブル・アブダビが取得する品目は、ルーブル美術館館長を委員長とする政府合同委員会の承認を得る必要がある。当時の委員長はマルティネズだったとされる。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月25日に掲載されました。元記事はこちら

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