ARTnewsJAPAN

映画監督のデヴィッド・リンチが“アーティスト”としてペース・ギャラリーと契約。11月にニューヨークで個展を開催

著名な映画監督でアーティストとしても活動しているデヴィッド・リンチが、世界に9つの拠点を持つメガギャラリー、ペースに所属することになった。リンチがニューヨークのギャラリーと契約するのはこれが初めてだ。

デヴィッド・リンチ Getty Images

ペース・ギャラリー初となるリンチの個展は「Big Bongo Night(ビッグ・ボンゴ・ナイト)」という興味をそそるタイトルで、11月にニューヨークで開催される。同時期に、同じくニューヨークのスペローン・ウエストウォーター・ギャラリーでは、リンチが紙に描いた作品の展覧会が予定されている。ペースでは油彩画のほか、ミクストメディアのランプの彫刻も展示するという。

ペース・ギャラリーのマーク・グリムシャー社長兼CEOは、「デヴィッドは過去50年にわたり、視覚文化に忘れがたい足跡を残してきた」と評価する。一方のリンチは声明で、「ペース・ギャラリーに所属できて本当にうれしい。マーク・グリムシャーが自宅に来てくれて、話し合いがうまくいったおかげで最高においしいコーヒーが飲めた。ペースのためにいい作品を作ると約束したら、笑顔でくれぐれも頼むと言われた」と語っている。

リンチは、「ブルーベルベット」(1986)や「マルホランド・ドライブ」(2001)といったシュールな映画や、テレビシリーズ「ツイン・ピークス」(1990-91)などのヒット作を手がけてきた。ペースとの契約が決まったのは、近年のアーティストとしての認知の高まりを受けてのことだ。アーティストとしてのリンチは、映像作品と同じように、ありふれた日常を舞台に悪夢のような世界観を表現した絵画を多く手がけている。

実は、リンチは初の長編映画「イレイザーヘッド」(1977)を制作する以前、アートの専門教育を受けている。60年代にペンシルバニア美術アカデミーで学び、インスタレーションや絵画の制作を行っていた。初期の作品は、のちに長編映画に描かれる夢の中のようなイメージを予感させるもので、嘔吐する人物やフランシス・ベーコンにインスピレーションを受けた絵画などがある。

しかし、リンチがペース・ギャラリーの正式発表のために用意した経歴はこうした事実にいっさい触れず、単に「イーグル・スカウト」(米国のボーイスカウトの最高位)とだけ書かれている。

リンチのアート作品は、過去にニューヨークの高名なアートディーラー、レオ・カステリに注目されたほかは、長年にわたって過小評価されてきた。近年ようやく再評価の動きが高まり、2014年にペンシルバニア美術アカデミーで回顧展が開催され、2016年にはドキュメンタリー映画「デヴィッド・リンチ:アートライフ」が公開された。

2018年、ARTnewsがアーティストとしてのキャリアがようやく認められつつあるのをどう感じているかとリンチに質問すると、こんな答えが返ってきた。「いいことだね! でも、こうなったのは最近だ。他のことで有名になると、画家としてまともに扱ってもらえないんだ。1つの仕事に専念するべきという価値観なんだろうが、今や状況は変わった」

リンチは以前、ロサンゼルスのケイン・グリフィン・ギャラリーに所属していたが、同ギャラリーは今年初めにペース・ギャラリーに吸収合併された。また、スペローン・ウエストウォーター・ギャラリーのほか、ジャック・ティルトン・ギャラリーでも展覧会を開いたことがある。

ペースはリンチのほかにも、過去数カ月で多数の新規アーティストを受け入れている。最近所属したアーティストには、今年のヴェネチア・ビエンナーレのウガンダ館に出展したアカイェ・ケルネン、ガーナの若手画家ギデオン・アパ、ハウザー&ワースからペースに移籍したマシュー・デイ・ジャクソンなどがいる。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月6日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい