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モンドリアン作品が75年以上、逆さまに? MoMAでの初公開時に間違った可能性。

今年、生誕150年を迎えるオランダ人画家、ピート・モンドリアン。幾何学模様の作品で知られ、20世紀最大の画家の一人とも称えられる芸術家だが、その作品の一つが、実は1945年の初公開時から77年にもわたって逆向きで展示されてきた可能性があるという。

Piet Mondrian: New York City 1, 1941, oil and paper on canvas, 47 by 45 inches. © 2022 MONDRIAN/HOLTZMAN TRUST; KUNSTSAMMLUNG NORDRHEIN-WESTFALEN, DÜSSELDORF; PHOTO WALTER KLEIN, DÜSSELDORF

今年、生誕150年を迎えるオランダ人画家、ピート・モンドリアン。そのスタイルの変遷をたどる展覧会「Evolution」が、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館(Kunstsammlung Nordrhein-Westfalen K20)で今月25日より開催中だ。

この展覧会のハイライトは、1944年に亡くなったモンドリアンの代名詞である幾何学模様の作品《ニューヨーク・シティ I》(1941)。しかし、展覧会前夜に行われた記者会見で、ある重大な秘密が明かされた。キュレーターのSusanne Meyer-Büserによれば、なんと《ニューヨーク・シティ I》 は75年以上前の初公開時から逆さに展示されていた可能性があるというのだ。

《ニューヨーク・シティ I》 は粘着テープを使った作品で、パリのポンピドゥー・センターで正しく展示されている、同じくモンドリアンによる絵画《ニューヨーク》に非常に近い作品だ。

記者会見でMeyer-Büserが語ったところによると、《ニューヨーク・シティ I》が逆さまである可能性を示す最初の手がかりは、モンドリアン本人のスタジオで撮影された写真だった。その写真には、上部に黄色、青色、黒色のストライプが密集する《ニューヨーク・シティI》が写っている。

「この写真に写っている方向が、モンドリアンが意図した実際の方向なのではないか」

そう語るMeyer-Büserによると、この作品は1945年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で初めて公開されたが、その際も、ストライプの密集部分は作品の上部ではなく下部にあったとのこと。「偶然なのか、見落としなのか。もしかすると、75年以上前にMoMAで開梱されるときにひっくり返ったのかもしれない」と彼女は続ける。

Meyer-Büserはまた、この説を裏付ける更なる証拠として、作品の制作工程にも着目。彼女の見解では、モンドリアンは短尺状のテープを「上から下へ」と注意深く重ね合わせ、特定の方法で編み込んでいったはずで、というのも、下から上へと貼り付けるのは非常に困難だからだ。また、イーゼルの上部にあるテープはひどく破れた状態にあるが、そもそもキャンバスの端まで届いていないことから、モンドリアンは上から下に向かって制作していた可能性が高いという。

とはいえ今回の展覧会では、この作品は1945年以来の方向、つまり、逆向きかもしれない方向で展示されている。Meyer-Büserはその理由として、「作品の向きを変えると破損の危険があることに加え、もしかすると正しい向きなどはそもそもない可能性もある」と述べている。

ちなみに、MoMAがこれまで間違った方法で展示した作品は、《ニューヨーク・シティI》以外にもある。1961年にアンリ・マティスの切り絵の作品《舟》が展示された際、Genevieve Habertという株式仲買人の女性が指摘するまで、美術館のスタッフも11万6千人の来館者も、さらには画家の息子であるピエールでさえ、作品が逆さに吊るされていることに気づいていなかったのだ。

Habertは何度も美術館に足を運び、購入したカタログと実際の展示の向きとを突き合わせて確認した結果、自分の考えが正しいことを確信したというが、それを美術館のスタッフに話したところ嘲笑された。そこで彼女はニューヨーク・タイムズ紙に掛け合い、この件を報じてもらうと、MoMAの学芸員たちは作品をもう一度見直し、最終的には正しい方法で展示し直したのだという。息子のピエール・マティスは同紙に対し、「Habert氏は勲章を与えられるべきだ」と語ったそうだ。(翻訳:貝谷若菜)

*US版ARTnewsの元記事はこちら

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