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ドクメンタ15の芸術監督が反ユダヤ主義疑惑を否定。ドイツで起きた大論争

ドイツのカッセルで5年ごとに開催される国際的な現代アート展、ドクメンタ。今年6月に始まるドクメンタ15の芸術監督を務めるインドネシアのアート・コレクティブ、ルアンルパが、ドイツ全土で起きている反ユダヤ主義疑惑について初めて反論を行った。

2022年のドクメンタの芸術監督に選ばれたインドネシアのアート・コレクティブ、ルアンルパのメンバーたち Photo Jin Panji/Courtesy the artists

ルアンルパは、オンラインのアートプラットフォームe-fluxに投稿した文書の中で、「ドクメンタ15が反ユダヤ的な声明を出したことはない」と強い言葉で否定。疑惑を向けられたことについては「民族的遺産と憶測に基づく政治的立場を理由に、アーティストに非合法のレッテルを貼り、牽制する形で検閲を行う悪意ある行為」と批判している。

ドクメンタに対する反ユダヤ主義の誹謗中傷:風評をめぐるスキャンダル」と題された文書は、5月7日に公開された。その数日前、ドクメンタ15による討論会「私たちは話し合う必要がある! (We need to talk!)」の中止が突然発表されたばかりだった。

この討論会の目的は、反ユダヤ主義、イスラム恐怖症、人種差別の実態についてアーティストや知識人が集まり、オープンな議論を行うことだ。しかし、有力なユダヤ人団体による批判を受け、ドイツのクラウディア・ロート文化相がドクメンタを擁護するなど、大きな論争になっていた。

これまでドクメンタ15は参加アーティストを擁護する発言はしていたが、ルアンルパ自体が長文の反論を公開したのは今回が初めてだ。ルアンルパはこの中で、論争を理由に一部の参加予定者が辞退を決めたと述べている。ただし、誰かは分かっていない。

この疑惑は、カッセル反ユダヤ主義対抗同盟(Alliance Against Anti-Semitism Kassel)が、アーティスト選考委員会のメンバーや一部の参加アーティストについて「イスラエルへの憎悪を助長した」と非難したことが始まりだった。これには事実誤認が含まれていたにもかかわらず、ドイツの有力紙ディー・ツァイト紙に取り上げられたことから、ドイツ国内で激しい議論を巻き起こした。

また、同同盟のブログには、ドクメンタ15のテーマ「ルンブン(lumbung)」(*1)について、ルムンバというカクテル(*2)の名前に似ていると揶揄する一文があった。ルアンルパは「ドイツの歴史的無知と人種差別的中傷との危険な接近が露見した」と抗議している。

*1 インドネシア語で「共有の米倉庫」の意(ドクメンタ15のウェブサイトより)。
*2 コンゴ民主共和国の元首相、パトリス・ルムンバにちなんで名付けられたとされる。

同同盟の主張には、以前からドイツ国内で問題とされてきた、パレスチナ人に平等な権利と財産を与えることをイスラエルに迫るBDS運動(「ボイコット、投資の引き揚げ、制裁」運動)をめぐる問題が含まれている。

ルアンルパは文書の中で、BDS運動と反ユダヤ主義が同列に扱われたのは不当で、まともな議論が不可能になっているという文化的状況が討論会が中止された背景にあると指摘。また、それが「主にグローバルサウス(*3)、特に中東の人々に影響を与え、検閲につながっている」とも述べている。

*3 グローバル化した資本主義による負の影響を色濃く受ける国や地域。

ルアンルパは「反ユダヤ主義」と「イスラエル関連の反ユダヤ主義」の区別にも触れ、「こうした政治的議論を拒否する人たちは、話し合いの場につくことさえしない」とし、次のように批判した。

「対話を拒否し、議論に参加すべき人と話し合うべき議題を独断で決め、自分たちが容認できない意見を持つ人たちを黙らせたいと望むなら、そのことを公にはっきりと述べるべきだ。(ドクメンタの)組織構成やキュレーションの詳細に対する批判の影に隠れるべきではない」

ルアンルパはさらに、「アカデミズムの実践は開かれた討論なしにはありえず、それこそが反ユダヤ主義に対する効果的な闘いの基礎として必要なものだ。もしも真の討論が阻止されるなら、現在巻き起こるテロや暴力の闘いは解決し難くなるだろう」とも述べている。

討論会は中止されたが、それ以外のドクメンタ15の計画は予定通り進行する見込みだ。6月18日にカッセルで開幕し、9月25日までの100日間にわたり開催される。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月9日に掲載されました。元記事はこちら

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