「血や涙、尿……これは人間の体液の絵画」──ミモザ・エシャールがフランス最高峰の芸術賞を受賞
フランス最高の芸術賞であるマルセル・デュシャン賞の今年の受賞者が決定した。植物と人間の共生を追求しながら、超現実的なもの、機械的なもの、そして地球の営みをつなぐ学際的な作品づくりで知られる気鋭アーティスト、ミモザ・エシャールだ。この賞は、パリのポンピドゥー・センターと共同で運営されており、受賞者には賞金35,000ユーロ(約515万円)が贈られる。
エシャールはこれまでも、アッサンブラージュ(既製品や廃品を寄せ集めて美術作品を作成する技法)や絵画、陶芸、ビデオゲームなどさまざまなジャンルを跨ぐリサーチ重視の実践を行なってきた。彼女のプロジェクトは、オーディエンスを豊かな想像世界──環境問題と人間の欲望や渇望、ユーモアが深く関わり合う──へといざなう。
今年パレ・ド・トーキョーで開催された展覧会でリリースされた彼女のロールプレイングゲーム「スポラル」は、単細胞生物の主人公が、他人の体液を使ってより高度な生命体への突然変異を試みるというもの。この主人公は、絶え間ない粘液分泌によって有機物を取り込み融合を繰り返す粘菌がモデルとなっている。マルセル・デュシャン賞では、自身が「曖昧な建築物」と呼ぶ、血や涙、尿といった人間の体液を想起させるウォータースクリーンをデザインした。
「私は長い間、ウォータースクリーンを用いた作品制作をしてみたいと考えていました。この作品は液体の絵画であると同時に、暗号化されたイメージでもあり、触れることのできない空間でもあります」と彼女はいう。流れ落ちる水の背後には、画角から出たり入ったりする一人の女性を捉えた動画が投影されている。
エシャールはまた、この作品は、特に閉経期の女性が服用するホルモン剤が女性の体を通過して再び水源に放たれ、農作物に供給されるという「潜行性の循環」の表現でもあると語る。
同賞はほかにジュリア・アンドレアニ、イヴァン・アルゴテ、フィリップ・ドゥクロザがノミネートされ、ファイナリストらの新作は2023年1月2日までポンピドゥー・センターで鑑賞することができる。
また過去のマルセル・デュシャン賞受賞者には、カプアニ・キワンガ、カダー・アティア、ラティファ・エチャフ、ドミニク・ゴンザレス・フォスター、トマス・ヒルシュホルン、メリク・オハニアンなどが名を連ねている。
*US版ARTnewsの元記事はこちら。