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ロッカクアヤコや五味謙二らが参加! アジアン・アートの祭典「アジア・ナウ・パリ」の注目作家8人

パリで最も象徴的な建築物の1つ、モネ・ド・パリ(パリ造幣局)で第8回「アジア・ナウ・パリ(Asia Now Paris)」が10月20〜23日に開催された。75を超えるアジア各国のギャラリーが参加したこのアートフェアから、特に目を引いたベストブース8選を紹介しよう。

アジア・ナウ・パリ Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

今回のアジア・ナウ・パリは、コロナ禍発生後初、かつ会場をモネ・ド・パリに移しての開催だ。参加ギャラリーには世界トップクラスのギャラリー、アルミン・レッヒ、ペロタン、リチャード・サルトゥーン、フランク・エルバズ、P21などの名前が並び、従来より規模が拡大している。

20日のプレビューでARTnewsの取材に応じたアジア・ナウのディレクター、アレクサンドラ・フェインは、「今回のフェアは特別だ」と強調した。

実際、この意欲的なフェアでは、工夫が凝らされたギャラリーブースに加え、いくつものトークやパフォーマンス、今回の展示のために制作されたサイトスペシフィックなコミッションワークなどのプログラムが盛りだくさんだ。たとえば、ロッカクアヤコの数時間に及ぶライブペインティングや、アーティストのナツコ・ウチノと91530ル・マレ(ビクトワール・ド・プルタレとベンジャミン・エイメールがパリから40分ほどの農場に開設したアートと農業の実験場)がコラボレーションした、麻を使った陶芸プロジェクトなどがある。

だが、アジア・ナウ・パリの最も大きな特徴は、いま世界で活躍するアジア人アーティストたちの最先端の作品が見られることだ。未知のアーティストを発見できる、またとない機会としても大いに楽しめる。ちなみに、このフェアが捉えるアジアは、ニューヨークのアジア・ソサエティが採用するアジアの定義に準じ、東アジア、中東、中央アジア、南アジア、東南アジアをカバーしている。

フェアのアーティスティック・ディレクター、キャシー・アリウは、「単なるホワイトキューブ(白い展示空間)ではなく、さまざまなタイプのブースを見せること」が、このフェアの目的の1つだと語っている。多くのギャラリーは、キュレーション志向のフェアを目指すという方針に沿い、ブースで紹介する作家の数を1人か2人に絞っている。大勢の所属アーティストの作品を並べるギャラリーが多い、アート・バーゼルの「Paris+」とは違った雰囲気だ。また、このフェアは環境への配慮をうたっており、展示スペースの壁は加工なしの木板を使うなど簡素なものになっている。

アリウはアジア・ナウについて、アジアの「多様なアートシーン」を紹介しながら、「探究心旺盛で、情熱があり、キュレーションされ、野心的かつ居心地の良い」新しいタイプのアートフェアにしていきたいと抱負を語っていた。

では、アジア・ナウ・パリのベストブース8選を紹介しよう(各見出しはアーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。


1.平賀敬/Loeve&Co(ルーヴ&コ)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

Loeve&Coの目の覚めるような黄色いブースで紹介された日本の平賀敬(ひらが・けい)は、アジア・ナウの出展作家の中でも特に歴史的な知名度のあるアーティストの1人。このブースに並んでいるのは、平賀がパリに住んでいた1966年から72年にかけて制作された作品だ。ジャン・デュビュッフェに心酔していた平賀は、デュビュッフェの芸術や彼が提唱していたアール・ブリュット(*1)のほか、ポップ・アートや漫画などからインスピレーションを得ていた。

*1 フランス語で「生(なま)の芸術」の意。既存の美術潮流から影響されていない表現、独学のアーティストによる芸術などを指す。

その作品は、現在パリで展示されている絵の中でもとびきりエロティックかつ陽気なものだ。たとえば、「Window(窓)」というシリーズは、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画「裏窓」(1954)の覗き見趣味に言及している。また、平賀の分身とも言える2人の男性(描いた時の時の気分によって、ミスターHだったりミスターKだったりする)が、性別を超越した風変わりな性行為に耽る絵もある。全盛期には世界的な評価を得ていた平賀だが、近年はその人気が低迷していた。だが、この展示を見れば彼の作品が魅力的であるのは明らかだ。美術館での本格的な回顧展が待たれる。 


2. Park Chae Dalle + Park Chae Biole(パク・チェダルとパク・チェビョル)/Anne-Laure Buffard(アンヌ=ロール・ビュファール)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

この印象的なブースを飾っているのは、パリを拠点に活動する25歳の双子の姉妹、パク・チェダルとパク・チェビョルの作品だ。それぞれ独自にアートや詩の創作に取り組んでいる2人だが、展示は一緒に行うことが多い。

今回展示されている作品は、故エテル・アドナンからインスピレーションを受けたもの。壁に掛けられた濃密で色鮮やかな6点の風景画はチェダルの作品で、ヒマラヤ山脈が描かれている。死期が近づくと来世に向かうために山に登るという風習に着想を得たものだという。ブースの角にあるインスタレーションもチェダルのもので、いくつものカンバスを糸で編み合わせてから色を塗った、すばらしい作品だ。


3. 「民藝アジア・ナウ(Mingei Asia Now)」/Nicolas Trembley(ニコラ・トランブレー)によるキュレーション

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

会場の上階へと階段を上ると、最初に目に入るのは特別展示セクションだ。ここに置いてある作品は、ほとんどが個人コレクションから貸し出されたものだが、一部は販売されている。この展示を企画したニコラ・トランブレーは、スイスの銀行家夫妻が築いた「シズ・コレクション」のキュレーターを務めている。

「民藝アジア・ナウ」というタイトルが示す通り、この展示は民藝運動にインスパイアされたもの。民藝とは、民衆と工芸を組み合わせた言葉で、20世紀前半の日本で誕生した生活文化運動を指す。トランブレーは、民衆の間で受け継がれてきた手仕事を大切にする考え方が、今もなお創造性を刺激するものであることを示しながら、スタイルや形態の間にヒエラルキーを設けずに、さまざまな時代の工芸品を一緒に並べている。日常の中に美を見出す民藝運動の精神に基づくこの展示には、現代を代表するアーティスト(リ・ウファン、アイ・ウェイウェイ、マイ=トゥ・ペレなど)の作品も出品されており、古くは18世紀に作られた工芸品とともに展示されている。


4.エクスカリバー/Sato Gallery(サトウ・ギャラリー)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

東京を拠点とするアーティストコレクティブ(集団)、エクスカリバーは、2007年に田中良典によって設立された。現在このグループを構成する13人ほどのメンバーは、デジタルアニメやNFT、アートオブジェなど幅広い作品を発表している。

アジア・ナウでは、伝統的な日本の掛け軸をアレンジした作品を3点展示。テレビゲームやドット絵への愛を融合させたピクセルアートは、ただただ美しい。しかし、もう少し掘り下げて見ていくと、いろいろな意味が読み取れる。それぞれの作品の上部には、「ステージ(またはレベル)」が記載されている。1945、1991、2022という数字のうち、最初の2つは第2次世界大戦と湾岸戦争の終結を、3つ目は現在進行中のロシアとウクライナの戦争を示唆している。また、山脈のような線は、戦況に合わせて上下する株式市場を思わせる。


5. Golnaz Payani(ゴルナズ・パヤニ)/Praz-Delavallade(プラズ=デラバラード)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

イラン系フランス人アーティスト、ゴルナズ・パヤニの繊細な新作は、布地をほどくことでテキスタイルの本質を見つめている。このシリーズでは、あちこちから拾い集めてきた額縁の中に収めたカンバス生地が部分的にほどかれて、織糸が滝のように枠の外に流れ出ている。ある作品は人物のシルエットのように見えるが、幻影のようなその形は、かつてそこにいた人の記憶を留めているようだ。

その近くに掛けられている2点では、複雑なジャカード織りの生地を解きほぐす過程を通してフランスとイランの植民地時代の関係を示している(かつてフランスでジャカード織の技術を学んだイラン人がそれを母国に持ち帰り、イランの職人たちが新たなモチーフを加えながら独自にそれを発展させた)。このシリーズを通して、パヤニは伝統的な絵画の手法をそっくり裏返してみせる。カンバスに何かを足す代わりに、何かを取り去って描くのだ。その効果は目を見張るものがある。


6.五味謙二/AIFA

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

現在、東京から東北方向へ特急電車で1時間ほどの笠間市に拠点を置く五味謙二(ごみ・けんじ)は、沖縄で伝統的な陶磁器の技法を学び、陶芸家として修行した。やがて彼は機能的な陶器だけでなく、重厚で不定形な石のような形の陶芸作品も作るようになる。作品の底の部分が黒くなっているのが特徴的だ。長く笠間陶芸大学校で学生たちを指導してきた熟練の陶芸家にとって、今回のアジア・ナウはフランスで行う初めての展示となる。


7.Yang Semine(ヤン・セミネ)/Marguo(マルグォ)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

現在フランスのディジョンに拠点を置く韓国人アーティスト、ヤン・セミネは、昆虫、特にトンボをモチーフにした新作シリーズを発表。鮮やかな色彩で描かれた彼女の絵画は、抽象のようでも具象のようでもあり、トンボのようにも、伝統的な韓服を着た女性のようにも、あるいは魔除けのようにも見える。ヤンは作品を制作する前に、しばしば瞑想するという。そして、下絵としていくつものデジタル・ドローイングを作った上で、その中からカンバスに描くものを選ぶ。これは、デジタルの世界と自然界の間の二項対立や、その親和性について考えるための方法だという。


8.架菜梨案(Kanaria)/quand les fleurs nous sauvent(カン・レ・フリュール・ヌ・スヴァン)

Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

架菜梨案(Kanaria)は絵画を制作する際、大まかな線で描かれた小さな絵からスタートすることが多い。ある場所にウサギなどの形を描いた後、カンバスの別の場所に移ってまた違う絵を描くという作業を繰り返し、画面が埋まってきたところで絵の具を使ってそれぞれの絵を1つのイメージとしてつなぎ合わせる。まるでパズルが少しずつ完成していくような感じだ。

彼女は油絵の具と色鉛筆を使い、人間や動植物が仲良く共存するエデンの園のような世界観を表現している。これらの動植物は互いにまったく違うように見えるかもしれないが、根っこにあるものは同じだということに目を向けるよう促しているようだ。架菜梨案の作品が発する柔らかなエロティシズムは、祝祭的でありながら、深く心に訴えかけてくる。(翻訳:野澤朋代)

  *US版ARTnewsの元記事はこちら

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