奈良美智がデイヴィッド・ツヴィルナーと契約。ブラム閉鎖を経て新たな章へ

10月3日、メガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーが、奈良美智の所属を発表した。ツヴィルナーの声明によると、奈良はペース・ギャラリーとの契約関係も継続するという。

奈良美智《Midnight Tears》(2023)Photo: ©Yoshitomo Nara/Collection of the Guggenheim Museum Bilbao

「世界4大メガギャラリー」のひとつに数えられるデイヴィッド・ツヴィルナーが、奈良美智の所属を10月3日に発表した。同ギャラリーに所属する存命の日本在住作家としては、今年5月に発表された西村有と、草間彌生に次いで3人目となる。

奈良はこれまでペース・ギャラリーブラムに所属していたが、ブラムが2025年7月に突然閉鎖を発表。ブラムでの奈良の最後の個展は2025年3月までロサンゼルスの拠点で行われていた「My Imperfect Self」だった。

デイヴィッド・ツヴィルナーとの契約は、奈良の国際エージェントであるエクイヴァレンス・アート・エージェンシーの創設者ジョー・バプティスタを通して行われた。バプティスタは今年初めまで、ペース・ギャラリーで奈良の担当を長年務めていた人物でもある。ペース・ギャラリーは、これまでバプティスタの離脱を発表していなかった。だがデイヴィッド・ツヴィルナーの声明には、「ペース・ギャラリーは今後もアーティストとの関係を継続する」と記されている。

US版ARTnewsがペースのCEOマーク・グリムシャーに取材したところ、次のような答えが返ってきた。

「奈良美智のために成し遂げた全てのことを誇りに思います。14年間の協働を振り返り、我々は一切の行動を後悔していません。ゆえに今回の展開には少々驚いていますが、この環境下では起こり得る事象だと理解しています。我々は作品への変わらぬ愛好者であり、今後もアーティストとのプロジェクト協力を楽しみにしています。彼とデイヴィッドの良好な関係を願います」

奈良美智は1959年青森県生まれ。東京と愛知で学んだ後にドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに進学。在学中と合わせて10年以上、デュッセルドルフとケルンで暮らし、初期の重要な創作を行った。奈良の作品は、睨みつけるような目をした少女の肖像画が最もよく知られているが、絵画以外にもドローイングや彫刻、建築の要素を取り入れたインスタレーションなど表現方法は多岐に渡る。

奈良の独特なスタイルの作品は世界中に熱烈なファンがおり、昨年から今年にかけては大規模個展「Yoshitomo Nara」がグッゲンハイム美術館ビルバオ(2024年6月28日~11月3日)、ドイツのフリーダー・ブルダ美術館(2024年11月23日~2025年4月27日)、ロンドンのヘイワード・ギャラリー(2025年6月10日~9月7日)を巡回。そして現在はアメリカのオレンジ・カウンティ・ミュージアムで個展「Yoshitomo Nara: I Don’t Want to Grow Up」が開催されている(12月28日まで)。そして日本では、弘前れんが倉庫美術館で開催中の「ニュー・ユートピア—わたしたちがつくる新しい生態系」(11月16日まで)など様々な展覧会や芸術祭に参加中だ

また、奈良の作品はオークションでの高額落札でも知られている。現在の最高額は、2019年にクリスティーズ・香港で行われたイブニングセールに出品された《Knife Behind Back》(2000)で、2500万ドル(現在の為替で約38億5500万円)。だが2025年10月15日に開催されたクリスティーズ・ロンドンのイブニングセールに出された《Haze Days》(1988)は、予想落札価格が650万ポンドから850万ポンド(約13億円~17億円)のところ買い手が付かず不落札となった

奈良の所属を伝える声明の中で、ギャラリー創設者のデイヴィッド・ツヴィルナーは、奈良がドイツに住んでいた1990年代初頭に故郷のケルンで初めて彼の作品に出会って以来のファンであると語り、こう振り返った。

「当時、奈良の作品は、私には非常にラディカルに見えました。というのも、その時代にアート界に蔓延していたポストコンセプチュアルな戦略に逆行するものだったからです。そして奈良は私たちに脆弱性と真の人間的繋がりの世界を熟考するよう誘いました。私はすぐに、奈良と私はケルンでの形成期を共有しているだけでなく、音楽への深い愛も共有していることを知りました。奈良の作品は偉大な歌に似ています。個人的で、感情的で、妥協がなく、試みに対して開かれているのです」

また声明の中でツヴィルナーは、ヘイワード・ギャラリーの回顧展を見たことを「真の啓示」と表現し、次のように評した。

「再び、私は芸術家としての奈良の途方もない寛大さに心打たれたのです。彼は私たちを彼の内なる宇宙へと容易に招き入れる一方で、自身の世界と向き合うよう挑戦することや、私たちには抵抗する権利があることを思い起こさせてくれました。現代における最も重要で真摯な声の一つである奈良美智をギャラリーに迎えることができ、深く光栄に思います」

一方奈良は声明で、「私が10代の頃、芸術家になりたいとは思っていませんでした。そして、おそらく今でもそうです」と話し、美術の道に進んだ理由は、美術学生の生活がとても自由に見え、作品を制作する姿勢そのものに自由があったからだと明かした。そして自身の創作についてこう語った。

「美術学校を卒業した後も、私の創作哲学は『芸術のための芸術』ではありませんでした。むしろ、それは人がどう生きるかという自由の中に存在するものであると信じているのです。学校で学んだ美術史や理論よりも、成長過程で吸収し、同世代の他者と共有した時代精神こそが、私の独特の感性を形成してきました。例えば、数百ページに及ぶ書物に収められた知識ではなく、この肉体が実際に経験した現実こそが、私の心に響くのです」

「私の作品は他者に向けられたものでもなく、他者を描いたものでもありません。自画像のように、それらは自分自身との対話から生まれるのです。画面に横たわる子どもや動物の姿をとった、ありのままの自己との対話からです。その意味で、私の作品の前に立つ鑑賞者もまた、そこに自分自身を発見し、自らの内なる自己と対話するのだと信じています」

「今、私は異なる場所で生まれ育ちながらも、同じ世代であり、私たちが共に生きてきた時代の精神―そのサブカルチャーも含めて―を共有しているギャラリストの指導の下で、これから創造する作品を発表できることを幸運に思います」

奈良のデイヴィッド・ツヴィルナーでの初個展は、ニューヨーク・チェルシーの拠点で開催される予定だ。(翻訳:編集部)

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