盗まれた肖像画が25年ぶりにメキシコの教会に帰還。オークション直前の来歴調査が決め手に

メキシコ・テオティワカンの教会から約25年前に盗まれた聖フランチェスコの肖像画が返還された。オークションハウスが出品前に行う来歴調査によって盗品であることが判明、故郷への帰還が実現した。

返還された《アッシジのフランチェスコ》(1747)。Photo: Courtesy Morton Subastas
返還された《アッシジのフランチェスコ》(1747)。Photo: Courtesy Morton Subastas

約25年前に盗まれたアッシジのフランチェスコの肖像画がメキシコのサン・フランシスコ・デ・アシス教会に返還された。同教会の神父を務めるテオドロ・ガルシア・ロメロは、返還式の際に次のように語った。

「肖像画が返還されたことは、地域の人々にとって言葉では言い表せないほど重要な意味をもち、テオティワカンの歴史を蘇らせる出来事でもあります。私たちは、この傑作が二度と戻ってこないのではないかと20年以上恐れていました。返還が実現したことは、私たちの教会と街にとって大きな喜びであり信仰の支えとなる出来事です。今日の出来事が、コミュニティにおける歴史的な瞬間になると確信しています」

2001年1月6日、窃盗団は首都メキシコシティから北東に約40キロメートル離れたテオティワカンにあるサン・フランシスコ・デ・アシス教会に侵入し、200年ものあいだ同教会に飾られていた《アッシジのフランチェスコ》(1747)を含む18点の作品を盗んだ。教会の祭壇に組み込まれていた小さな絵画7点も奪われたが、これらは依然として行方不明で、犯人たちも未だ捕まっていない。盗難が判明した直後、教会はインターポールに通報し、盗まれた芸術品は「アート・ロス・レジスター」に登録された。このデータベースには、行方がわかっていない美術品や骨董品が約70万点登録されている。

《アッシジのフランチェスコ》はその後、骨董品や近現代美術、宝飾品、ワインなどを扱うメキシコシティのオークションハウス、モートン・スバスタスによって管理されていた。2018年にオークションへ出品される予定だったが、デューデリジェンス手続きの一環として同オークションハウスがアート・ロス・レジスターに目録を提出した際、盗難品であることが判明した。作者不詳の本作は約28万メキシコペソ(約237万円)の価値があるとされており、販売を委託した人物は、メキシコのディーラーから購入したと説明している。

当時の捜査によれば、サン・フランシスコ・デ・アシス教会で盗難があったのと同じ月に、サン・アグスティン・アコルマン修道院からも18世紀に制作された絵画10点が盗まれており、組織的犯行と考えられてきた。メキシコ国立人類学歴史研究所の職員は当時、アコルマン修道院の損失は「計り知れないものだった」とホルナダ紙に語っている

アート・ロス・レジスターのシャーロット・チェンバース=ファラ(中央)と、サン・フランシスコ・デ・アシス教会の神父テオドロ・ガルシア・ロメロ(左)。Photo: Courtesy Morton Subastas
アート・ロス・レジスターのシャーロット・チェンバース=ファラ(中央)と、サン・フランシスコ・デ・アシス教会の神父テオドロ・ガルシア・ロメロ(左)。Photo: Courtesy Morton Subastas

サン・フランシスコ・デ・アシス教会に返還された《アッシジのフランチェスコ》の中で、フランチェスコは片手に頭蓋骨を、もう片方には十字架を持っている。その手足に描かれた聖痕は、地域の伝承と教会の教義によれば、修行の際に天使から授けられたものとされる。足元には子羊が立ち、前景には守護聖人のような小像がひざまずいて祈る姿が認められる。

フランチェスコはいくつかの修道会を創設し、献身的に貧困に向き合った。人を惹きつける魅力から何千人もの信者を集めた彼は、イタリアだけでなく、環境と動物の守護聖人でもある。フランチェスコの姿は、ジョットやジョヴァンニ・ベッリーニ、ホセ・デ・リベーラ、ピーテル・パウル・ルーベンスといったオールドマスターたちによって描かれている。

本作の返還は、世界中で美術品や貴重な文化財の盗難が相次ぐなかで実現した。10月末にはパリのルーブル美術館から1億200万ドル(約158億円)相当の宝飾品が盗まれている。同じ日には、異なる窃盗犯によってドゥニ・ディドロ啓蒙の館から金貨と銀貨が2000枚ほど奪われた。そのわずか数日後には、カリフォルニア州オークランド美術館の倉庫から1000点以上の文化財が盗難被害にあっている

アート・ロス・レジスターのビジネス開発・顧客マネージャーであるシャーロット・チェンバース=ファラは、絵画の返還に際して次のように述べた。

「公共機関や教会を狙った盗難が増えるなか、肖像画が返還されたことは、個々の被害者だけでなく地域社会全体にとっても希望となる出来事です。文化的遺産には計り知れない歴史的価値があり、盗まれたものであっても正当な持ち主のもとへ戻り得ることを改めて示しています。来歴確認によって絵画を特定できたこと、そして返還のために協力したオークションハウス、モートン・スバスタスの尽力にも感謝します」

(翻訳:編集部)

from ARTnews

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