ゲストの名語録付き! キム・カーダシアンらセレブが大集結したLACMAアート+フィルムガラをリポート
毎年恒例の「アート+フィルム ガラ」が、11月5日の夜、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)で開催された。エヴァ・チョウとレオナルド・ディカプリオが共同ホストを務め、LACMAの運営資金を集めるために行われたこのチャリティイベントには、今年も数々のスターが登場。イベントに参加したUS版ARTnewsの記者が現場で聞いたゲストたちの名言とともに、その様子をリポートする。
アート界のアカデミー賞とも言うべきLACMAの「アート+フィルム ガラ」は、トップアーティストと映画界の重要人物が一堂に会する資金調達イベントだ。エヴァ・チョウ とレオナルド・ディカプリオが会長を務め、アウディとグッチが共同スポンサーとして名を連ねる。
「アート+フィルム」というタイトル通り、毎年、文化の発展に貢献したフィルムメーカーとアーティストが表彰される。今年の受賞者は、1960年代に南カリフォルニアで始まった光と空間を制作材料に用いる芸術運動、ライト・アンド・スペース(*1)運動のアーティストとして知られるロサンゼルス出身のヘレン・パシュジャンと、今年の第75回カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得した韓国のパク・チャヌク監督。また、エルトン・ジョンがゲスト出演し、歌とピアノを披露した。LACMAのマイケル・ゴーヴァン館長によると、第11回目を迎えた今回のガラでは、過去最高の「500万ドル(約7億2000万円)を超える」寄付金が集まったという。
ウィルシャー・ブールバードからLACMAに向かうと、クリス・バーデンの彫刻《Urban Light(アーバン・ライト)》(2008)がある。その前に黒いSUV車が次々と停まり、作品の輝くランプポストが、ピンクがかった夕日と十数人のカメラマンの絶え間ないフラッシュに照らされていたのが印象に残る。その後のイベントでパシュジャンが、南カリフォルニアの光を形成するフォトン(光の粒子)には特異な性質があると語ったのと呼応するようだった。
ここからは、ガラで交わされたゲストたちの会話から印象に残った名言とともに、パーティの様子をリポートする。
「韓国と米国、両方の文化をよく知る友人のアドバイスをいつも思い出すようにしています。(中略)何かを自慢したいなら、そうすればいい、アメリカ人はみんなそうしているから、と。というわけで、これは明らかに私にふさわしい賞です。受賞は当然でしょう」
──映画『別れる決心』パク・チャヌク監督の受賞スピーチ。
LACMA理事のカーター・レウム&パリス・ヒルトン夫妻ほか豪華ゲストたち
ガラの前に、カクテルパーティがヤシの木に囲まれたLACMAの中庭で行われた。暗めの紫色のライトに包まれた会場を、着飾った人たちが埋め尽くす。私はバーカウンターに向かって人をかき分けて進み、俳優のジャレッド・レトとすれ違い、写真家キャサリン・オピーの横を通り過ぎた。オピーは、LACMAの理事であるカーター・レウムと、その妻パリス・ヒルトンと雑談を交わしているところだった。「(女優の)モリー・リングウォルド(*2)が来てる」と教えてくれたオピーは、有名人の群れに少々たじろいでいるようだった。彼女のスーツはグッチの特注品で、2018年のガラのためにグッチから贈られたものだという。「そう、あのとき受賞式で着た服よ。クローゼットにしまい込んだままにしていてもね」
パーティの人混みで目立ったのは、周囲より飛び抜けて背が高いマーク・ブラッドフォードだ。抽象絵画やコラージュ作品で知られるブラッドフォードは、見ているこちらの胸が締めつけられるくらい長い時間、アーティスト仲間のヘンリー・テイラーをハグしていた。ブラッドフォードとテイラーは、90年代半ばにカリフォルニア芸術大学の学生だった。その頃はいつも、「『ヘンリー、僕たちならきっとできる』と、ともすれば落ちこぼれがちなお互いを励まし合っていたんだ」と語る。腰をかがめて私をハグしながら「幸運を祈る」と言い残し、彼はフロアの中央にさっそうと戻って行った。
「フランスのカナダみたいなものよ」
──スイス出身のアーティスト、ルイーズ・ボネが、アレックス・ハバードにスイスを説明したときの表現。
ゴッサムシティの上流社会のようなディナー会場
ディナー会場には、ろうそくの灯りに照らされたテーブルがどこまでも並んでいた。ビバリーヒルズにあるイタリア料理店、グッチ・オステリアによるパスタ料理の皿の中には、ミニチュアのようなトルテリーニ(丸く折りたたんだパスタ)が、ホワイトパルメザンソースの中に漂っている。ABCの人気テレビドラマ「アボット・エレメンタリー」の製作者で出演もしているクインタ・ブランソンは、「バットマンならここから救ってくれるかもしれない。そんなふうに思せるイベントね」と言っていた。会場全体がまるでゴッサムシティの上流社会のように感じられるということらしい。
近くに座っていたのは、ロサンゼルスを拠点に活動する代表的画家、ルイーズ・ボネとアレックス・ハバードで、2人とは絵画やサーフィン、ロサンゼルスについて話がはずんだ。私の右隣にいたリビアの亡命王族アリア・アル=セヌーシは、ボーイフレンドのスタファン・アーレンバーグ(美術出版社カイエ・ダールのオーナー)を紹介してくれ、彼らの友人でこの夜のホストの1人、LAフットボールクラブの経営者ラリー・バーグとLACMA理事のアリソン・バーグのこともそっと指差して教えてくれた。「今夜は、ロサンゼルスの持つ特質と、アート界でロサンゼルスが重要な存在であることを、みんなで祝福するためのイベントよ」とアル=セヌーシは言い、「それに、モリー・リングウォルドを見れたわ!」と付け加えた。
「いろいろな考えを聞いて怖気づかないこと。カッコをつけず、勇気を出して知らないと言おう。弱音を吐いてもいいし、知らなくてもいいんだから」
──アーティストのマーク・ブラッドフォードのアドバイス。カリフォルニア芸術大学のチャールズ・ゲインズの授業を何年受けてもよく分からなかった自らの経験から。
映画、科学、ライト・アンド・スペース
今回表彰されたヘレン・パシュジャンは、グッチの華やかなロングドレスを着て、スタンディングオベーションを受けながらステージに登場した。彼女は南カリフォルニアのアーティストのパイオニア世代でもあり、古き良きハリウッドを体現する世代でもある。パシュジャンを始めとするライト・アンド・スペースのアーティストたちは、南カリフォルニアの陽光を凝縮して閉じ込めたかのような樹脂彫刻を制作したが、かつては作品が酷評されたこともあった。
パシュジャンはスピーチで、航空宇宙産業、エンターテインメント、アート界は全て、カリフォルニアを形成する微気候(*3)のようなもので、この地に特有の魅力的な光に影響されていると語った。「結局のところ、この不思議な光は常にこの地にあり、昔から少しも変わっていません」と彼女は言う。「とらえどころがなく、謎めいていて、理解することがかなわない。そんなところに魔法のような魅力があるのです」
「『すてきな片想い』に出てたモリー(・リングウォルド)だ!って感じ」
──ジョージ・ルーカスがロサンゼルスに建設中のルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティブ・アートのサンドラ・ジャクソン=デュモン館長の言葉。
シメはエルトン・ジョンと小さなドーナツ
俳優イドリス・エルバの呼びかけで、ゲストたちはLACMAの中庭に向かった。エルトン・ジョンが、つややかな赤いピアノの前に座っている。キャサリン・オピー作品のコレクターであるエルトン・ジョンは、かつてオレンジカウンティで行ったライブのMCで、「タイニー・ダンサー(邦題:可愛いダンサー〜マキシンに捧ぐ〜)」を、オピーに、そして「ロサンゼルスの全ての女性たち」に捧げたという。「そのときライブ会場にいた友人たちが次々とメッセージを送ってきたんですよ。私もそこにいることを知らずにね」と、オピーが教えてくれた。
出されたデザートは、これまた小さいサイズのチョコレートドーナツだった。そして「タイニー・ダンサー」の演奏が始まると、みんなが我を忘れたかのように体を揺らして歌い始め、俳優のエイドリアン・ブロディがその様子をスマートフォンで撮影していた。エルトン・ジョンは、ピアノのリフ、完璧なボーカル、長く続くエンディングまで、惜しみなくすばらしいパフォーマンスを披露し、私たちを魅了した。この人は音楽界のデイヴィッド・ホックニーなのではないかと感じた瞬間があったくらいだ。エルトンがステージを降りるとき、たまたま私の右隣にいた元気な若者が、「魂が肉体から離れてしまったようだ」と叫んでいた。
「あなたが独立したのはすごいこと。あのアートディーラーは、あなたにとても意地悪だったから」
──トイレにいた若い女性が、別の女性に。
ビリー・アイリッシュはグッチのパジャマ姿で
エヴァ・チョウの自宅でアフターパーティがあると聞いたが、私は記事を書かなくてはならない。ふかふかのカーペットが敷き詰められたガラの会場を抜け出し、ハイヒールのかかとが固いアスファルトの地面を感じたとたん、現実に戻ってきたことを思い知らされた。
入口に置かれたバリケードの向こうで、何十人もの若い女性たちがビリー・アイリッシュの出待ちをしている。実はアイリッシュは私のすぐ前にいて、グッチのパジャマを着て歩いていた。アイリッシュは高級車の後部座席に乗り込んだが、私は2本向こうの通りまで歩いて、駐車していたトヨタ・プリウスのドアを開けた。パーキングメーターは制限時間を超えていたが、フロントガラスに違反切符は貼られていない。正直なところ、想像をはるかに超えた、魔法のような夜だった。
「中途半端だという批判を受けたこともありました。確かにようやく半分完成したところです」
──LACMAのマイケル・ゴーヴァン館長が、ピーター・ズントー設計の新館工事の進捗について述べた言葉。
(翻訳:清水玲奈)
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