背景に職員の「ワーキングプア」問題。テート美術館群で賃上げをめぐる抗議ストライキ実施へ

イギリスの美術館機構テートに属する美術館で、ストライキが予定されていることが分かった。公共・商業サービス労働組合(PCS)の発表によると、経営側から提示された賃上げ率が「不十分」だとして、150人以上の組合員が参加する。

2020年8月にテート・モダンで実施された人員削減への抗議ストライキの様子。Photo: Matthew Chattle/Future Publishing via Getty Images

イギリスの公共・商業サービス労働組合(PCS)は、テートのネットワーク傘下にある4つの美術館の組合員150人以上が、賃上げ率を不服として11月26日から12月2日にストライキ実施を予定していると発表した。

PCSによると、同労組の組合員の88%が参加した投票で、投票者の98%がストライキ実施に賛成した。また、組合が最近実施した調査によると、テートの組合員の72%が、現在の給与水準は基本的な生活費を賄うのに不十分だと回答している。

テートはコロナ禍による財政難の影響が長引いているとして、今年3月に職員の7%にあたる40人の人員削減を行っている。また、コロナ禍でのロックダウンなどによる打撃が大きかった2020年にも300人超を削減した。

そんな中、テート・ブリテンテート・モダン、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの4館の従業員に提示された賃上げ率は2~3%だった。これに対しPCSは、「生活費の上昇と慢性的な低賃金への懸念が高まっている状況で」この率は「不十分」との見解を示している。

組合はまた、この提示が政府の「公務員給与指針」で認められている上限の3.25%より低い点を問題視している。同指針では低賃金問題などへの対応として、0.5%の追加引き上げの可能性も示されていた。これについてPCSのフラン・ヒースコート書記長は、次のように主張する。

「テートのディレクターが相当額の給与パッケージやボーナスを支給される一方で、職員は『ワーキングプア』状態にあります。こうした状況では、ストライキに対して圧倒的な賛成票が集まるのも当然です。我われの組合員は、テートの上級管理職による不当な賃金提示案を拒否し、美術館の運営に大きく影響するストライキに踏み切る用意ができています」

テートの年次報告書(2024-25年)によると、ディレクターを務めるマリア・バルショーの年俸は22万1862ポンド(最近の為替レートで約4500万円、以下同)、マネージングディレクターのカリン・ヒンズボとカーメル・アレンは、それぞれ17万4400ポンド(約3540万円)と16万1078 ポンド(約3270万円)とされている。

4館のうちテート・ブリテンでは、11月27日に始まる大規模展の準備が追い込みに入っている。イギリス絵画の巨匠ジョン・コンスタブルJ.M.W.ターナーの生誕250周年を記念して行われる「Turner & Constable: Rivals & Originals(ターナーとコンスタブル:独創性を競う)」だが、ストライキが実施されれば予定通りの開幕が難しくなる可能性が高い。

テートの広報担当者は、賃金をめぐる問題について英ガーディアン紙の取材にこう答えた。

「テートは今年、職員の給与に投資しつつ収支均衡を図るため、慎重に経費削減を行いました。これには、下位3つの給与帯を含むほとんどの職員給与を3%引き上げることが含まれます。一方、全体の費用均衡を図るため、上級職の給与の引き上げ率は0%です。持続可能な財務モデルを構築・維持することによってのみ、職員への長期的な投資継続が可能となるのです」

テートは新たな資金調達の方法も模索しており、ローランド・ラッド理事長は新基金を設立する資金として、テート・モダンにあるタービン・ホールの命名権を最低5000万ポンド(約102億円)で販売する構想を打ち出した。「テート・フューチャー・ファンド」と名付けられたこの基金は、2030年までに1億5000万ポンド(約305億円)の資金調達を目標としている。(翻訳:石井佳子)

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