黒人女性ディラーをトップに抜擢。YBA輩出で知られる英ホワイト・キューブが23年にNY進出
英国を代表する大手ギャラリー、ホワイト・キューブが、いよいよ2023年秋に米国初の常設ギャラリーをニューヨークに開設する。オープンまで約1年となった今、新しいギャラリーを率いる人物の名が発表された。
ホワイト・キューブが米国に新設するギャラリーのシニアディレクターに任命したのは、ニューヨークのギャラリー、ミッチェル=イネス&ナッシュのパートナー(共同経営者)だったコートニー・ウィリス・ブレアだ。ブレアは、23年1月からホワイト・キューブの米国事業戦略と展覧会企画を統括することになる。
来年創立30周年を迎えるホワイト・キューブは、90年代にヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)と呼ばれる若手アーティストを世に出したことで注目を集めた。当時英国で頭角を表し、ホワイト・キューブでメジャーデビューした中には、トレーシー・エミンやダミアン・ハーストなどの有名作家がいる。また近年は、マイケル・アーミテージやイラーナ・サヴディなど、多様なルーツを持つ若手も多く扱っている。
ウィリス・ブレアはインタビューで、同ギャラリーの伝統を米国でも踏襲し、キャリアの初期からアーティストをサポートすることで定評のあるホワイト・キューブの方針を維持していきたいと語っている。
ARTnewsの取材に対し、「ホワイト・キューブは、キャリアの最初期からアーティストの伴走者になるという独自のスタンスを明確に打ち出してきました」と彼女は言い、同ギャラリーの創設者、ジェイ・ジョプリンについてこう語った。「よく知られている通り、ジェイはYBAsの作家たちと密接な関係にありますが、それはとても重要なことだと思います。その時々の流行に飛びつくのではなく、時間をかけてアーティストを育て、彼らが息の長いキャリアを築くのに貢献してきたのですから」
ウィリス・ブレアは、ミッチェル=イネス&ナッシュに在籍中、パフォーマンスアーティストのポープ・L、画家のギデオン・アパー、ビデオアーティストのジャコルビー・サッターホワイトなど、革新的な活動で知られるアーティストたちを手がけ、ニューヨークのアートシーンで高い評価を得た。アパーとサッターホワイトの2人を同ギャラリーの所属作家として迎え入れたのは彼女だ。
ミッチェル=イネス&ナッシュで数年間ディレクターを務めた後、ウィリス・ブレアは2020年にパートナーに昇格。白人オーナーが経営する米国のギャラリーでパートナーの肩書を持つ数少ない黒人ディーラーとなり、シニアディレクターも兼務していた。
こうした業績に比べて語られる機会は少ないが、彼女のキャリアの中で重要なのは、16年に設立した「アントレ・ヌ(Entre Nous)」という団体だ。黒人女性ディーラーが定期的に集まるこの団体には、エボニー・L・ヘインズ、カイラ・マクミラン、ジェオナ・ベロラド=サミュエルズ、ニコラ・ヴァッセルなど、ニューヨークのトップディーラーたちが参加している。
ウィリス・ブレアは、ホワイト・キューブに移った後もアントレ・ヌとの関わりを持ち続けるつもりだと話す。「メンバーそれぞれがプロとして成長していくにつれ、アントレ・ヌの存在価値はますます高まっています。私たちは、コロナ禍で外出規制が敷かれる中でも連絡を取り合っていましたし、今もそうしています。設立当初から意義深い組織でしたが、さらにその重要性が増しているのです」
香港、パリ、フロリダ州ウェストパームビーチにもギャラリースペースを持つホワイト・キューブのニューヨーク進出は、ウィリス・ブレアいわく、アートマーケットに不透明感が漂う中での船出になる。だが、彼女は新しい仕事に自信を持っているようだ。
「インフレやサプライチェーンの問題など今後の展開が読みにくい要素は多いものの、ホワイト・キューブのビジネスは堅調です。だから、極めて重要なこの局面で挑戦することができるのです」(翻訳:野澤朋代)
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