工芸とアートの境界を超えて──「最優秀新人アーティスト賞」はクラウディア・アラルコン&シラット【ARTnews Awards 2025】

US版ARTnewsが2024年に開始した「ARTnews Awards」は、アメリカの美術機関やギャラリーで開催された様々な展覧会を対象に、優れた展示を選出して讃えるもの。2025年の「最優秀新人アーティスト」に選ばれたのは、ウィチ族の伝承を織物として可視化するアーティスト、クラウディア・アラルコン(Claudia Alarcón)とシラット(Silät) 。

Photo: ARTnews JAPAN
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10年以上にわたり、クラウディア・アラルコン(Claudia Alarcón) はウィチ族の伝承を織物として可視化し続けてきた。これらの作品の多くは、キュレーターのアンドレイ・フェルナンデス(Andrei Fernández)によって結成された女性織工グループ「シラット(Silät)」との協働により制作されたものだ。アルゼンチンのサルタ州で活動する彼女たちは、口承で受け継がれてきた物語を、伝統的なウィチの技法を用いて物質化している。

グループでの活動のみならず単独でも制作を行うアラルコンは、アルゼンチン国内の主要アートフェアにおいて自身の織物をクラフトではなくアート作品として展示した初の先住民女性だ。彼女は、国内では長らく工芸としてのみ受容されてきたウィチの織物に新たな道を拓いたといえる。アラルコンは今年初めUS版ARTnewsに対して、「これまでは常に工芸品としてしか見られていませんでした。アートではなかったのです。私たちにとってその作品が持つ意味を、人々に伝えたいのです」と語っている。

2024年にヴェネチア・ビエンナーレ初参加を果たしてから1年後、彼女はアメリカでの初個展を開催した。それは、彼女の作品が備える意味の豊かさを余すところなく示すものとなった。ニューヨークのジェームズ・コーハン・ギャラリー(James Cohan Gallery)を会場に、自身が所属するロンドンのギャラリー、セシリア・ブランソン・プロジェクツ(Cecilia Brunson Projects)との共同企画として開催された本展では、ウィチの女性たちが幼少期から習うイカ(yica)と呼ばれるループ状のステッチを用いた多彩な織物が展示された。イカはゆるやかに垂れる糸の輪で、ウィチの人々が日常的に使う斜め掛けバッグなどにも使われる技法だ。アラルコンとシラット所属の世代の異なる織工たちは、このステッチを使い、実用品としてではなく壁掛け作品としての織物群を制作した。

いくつかの作品は、星々から女性がチャグアール(chaguar=南米北部に自生する多年生植物で、ウィチ族などの先住民コミュニティが古くから生活の中で使用してきた植物)の繊維を伝って地上に降り立ち、その植物で織物を作るようになったというウィチの古い伝承を直接参照している。こうした物語に基づき、作中には星形のモチーフが現れ、ウィチの人々が古来から用いてきた抽象パターンと共存する。また別の作品では、クラフトとアートを隔ててきた偽りの区分に対し、ユーモラスに揺さぶりをかけた。《Un coro de yicas(イカの合唱)》(2024)は、シラトの織工たちが通常はクラフトフェアで販売するような斜め掛けバッグを壁面に構成したインスタレーションで、実用性だけでなく審美性をもつオブジェクトとして鑑賞されうることを示した。特筆すべきは、展示されたバッグがちょうど100個だったこと。つまり、シラットの参加メンバー1人につき1点を制作したということだ。(翻訳:編集部)

ノミネート作家

スーラ・バミューデス=シルバーマン(Sula Bermudez-Silverman)
展覧会名:「Sula Bermudez-Silverman: mole, mold, molt」
会場:ハンナ・ホフマン・ギャラリー(ロサンゼルス)
会期:2025年2月15日〜3月29日

EJ・ヒル(EJ Hill)
展覧会名:「EJ Hill: Low-slung Promises on the Tongues of the Devout」
会場:52 ウォーカー(ニューヨーク)
会期:2025年6月25日〜9月13日

ロータス・L・カン(Lotus L. Kang)
展覧会名:「Lotus L. Kang: Already」
会場:52 ウォーカー(ニューヨーク)
会期:2025年4月11日〜6月7日

ディオンヌ・リー(Dionne Lee)
展覧会名:「Outlooks: Dionne Lee」
会場:ストーム・キング・アートセンター(ニューヨーク州ニューウィンザー)
会期:2025年5月7日〜11月10日

審査員:ヴィクトリア・サン(バークレー美術館)、ルバ・カトリブ(MoMA PS1)、ライアン・N・デニス(ヒューストン現代美術館)、アン・エルグッド(ロサンゼルス現代美術館)、ロサリオ・ギラルデス(ウォーカー・アート・センター)、アレックス・グリーンバーガー(US版ARTnews)、マクシミリアーノ・デュロン(US版ARTnews)

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