すべての行為が芸術になりうる──「生涯功労賞」はラルフ・レモン【ARTnews Awards 2025】
US版ARTnewsが2024年に開始した「ARTnews Awards」は、アメリカの美術機関やギャラリーで開催された様々な展覧会を対象に、優れた展示を選出して讃えるもの。2025年の「生涯功労賞」に選ばれたのは、ダンサー・振付師から出発し、ジャンルの境界を超えた創造的コラボレーションで現代アートの領域を拡張してきたラルフ・レモン(Ralph Lemon)。

一つのメディアに縛られることなく制作を続けたラルフ・レモン(Ralph Lemon)は、過去30年間にわたって、ダンスやドローイング、ペインティング、インスタレーション、彫刻、そして執筆の境界を横断する作品をつくり上げてきた。ダンサー・振付師としてキャリアをスタートさせたレモンは、自身が立ち上げたダンスカンパニーを1985年から1995年まで運営。その後はさまざまな表現手法を用いた芸術活動に専念する。彼の創作の核にあるのはジャンルを超越した創造的コラボレーションであり、あらゆる行為が芸術になりうるという信念だ。
こうした彼の想いが初めて結実したのは、「Geography Trilogy」(1996-2004)と題されたパフォーマンスアートだ。この制作過程でレモンはアメリカ南部を訪れ、ミシシッピ州出身の元小作農であるウォルター・カーターと出会う。カーターはレモンの複数のプロジェクトに関わったが、その関係性は、必ずしも作品制作を直接の目的としたものではない。レモンはカーターにさまざまなタスクを投げかけ、カーターはそれを自由に解釈し応答した。そして、その一連の応答をレモンは丹念に記録し続けた。カーターは2002年に他界してしまうが、レモンはその後もミシシッピ州に戻り、彼の家族とともに過ごしている。レモンは、カーターと協働していた当時の様子をArt in America誌のインタビューでこう語っている。
「ウォルターは私にとって神のような存在でした。彼はミシシッピ州の小さな町で生まれ育った南部の黒人男性です。目を凝らさなければ見つけられないような町の出身者である彼の存在が意味するものは計り知れません。そんなウォルターは、私の作品のセンターピースとなったのです」
その後、カーターと彼の家族の様子を記録した映像は、MoMA PS1で開催されたレモンの展覧会の核となった。ある映像ではカーターが紐を収穫し、別の映像では彼の家族が庭の手入れをしている。こうした映像作品は、現代の衣服で飾られたアフリカ彫刻のファウンド・オブジェや、人物が画面いっぱいに広がるドローイングなど、レモンによる他の作品とともに展示された。別の展示室には、ケヴィン・ビーズリー(Kevin Beasley)やオクウイ・オクポワシリ(Okwui Okpokwasili)らと共同で実施したパフォーマンスの記録映像《Rant (Redux)》を展示。さらに隣接する展示室では、パフォーマンスから派生したオブジェクトや素材が設置されている。また、展覧会の会期中には躍動感のあるパフォーマンスも実施された。
レモンの作品は、展示空間内で展開することは難しい。このため、キュレーションを務めたコニー・バトラーとトーマス・ラックスがレモンに個展開催を打診した際に彼は辞退し、同意を得るまでに時間を要したという。だが、MoMA PS1で開催された展覧会は、レモンの創作から放たれるエネルギーを来館者に強く実感させた。それはまた、彼の実践を支える信念の確かさを明らかにする場ともなった。(翻訳:編集部)
【ノミネート作家】
カンディダ・アルバレス(Candida Alvarez)
展覧会名:「Candida Alvarez: Circle, Point, Hoop」
会場:エル・ムセオ・デル・バリオ(ニューヨーク)
会期:2025年4月24日〜8月3日
カール・チェン(Carl Cheng)
展覧会名:「Carl Cheng: Nature Never Loses」
会場:コンテンポラリー・オースティン(テキサス)
会期:2024年9月6日〜12月8日
レイモンド・サンダース(Raymond Saunders)
展覧会名:「Raymond Saunders: Flowers from a Black Garden」
会場:カーネギー美術館(ピッツバーグ)
会期:2025年3月22日〜7月13日
ステイナ(Steina)
展覧会名:「Steina: Playback」
会場:MITリスト・ビジュアル・アーツ・センター(マサチューセッツ)
会期:2024年10月26日〜2025年1月12日
審査員:ヴィクトリア・サン(バークレー美術館)、ルバ・カトリブ(MoMA PS1)、ライアン・N・デニス(ヒューストン現代美術館)、アン・エルグッド(ロサンゼルス現代美術館)、ロサリオ・ギラルデス(ウォーカー・アート・センター)、アレックス・グリーンバーガー(US版ARTnews)、マクシミリアーノ・デュロン(US版ARTnews)
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