米アート業界の人種・ジェンダー格差は「ゆるやか」に改善の傾向。美術館職員・理事の多様性調査より
ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が再燃した2020年以降、世界中の美術館に対し、組織的不平等を是正する声が高まっている。しかし、目覚ましい進捗があったとは言えないようだ。
11月16日、アメリカで2つの報告書が発表された。1つはメロン財団によるもの、もう1つは美術館のための黒人理事会連合(BTA)が行った調査結果だ。それによると、アメリカの美術館ではスタッフ構成の多様性が向上しつつあるものの、改善のペースはBLMデモ参加者の期待に応えられるレベルには達していないことが分かった。
メロン財団の報告書「美術館スタッフ人口統計調査」は、アメリカ美術館・博物館同盟およびアメリカ美術館長協会の協力でまとめられた。同報告書によると、2015年と17年の過去2回に発表された調査結果と比較して、最新の調査では、美術館職員に占める有色人種の割合は全ての職種において増加しているが、上昇のペースは「ゆるやか」だとされている。
調査対象となった美術館職員の有色人種比率は、15年の27%から22年には36%へ上昇。管理職に占める有色人種の割合も増加傾向にあり、黒人の管理職の数は15年から倍増している。
このデータをまとめたのは、学術・文化関連の調査やコンサルを行う非営利団体Ithaka S+Rだ。22年2月から4月にかけて調査を実施し、北米の328の美術館スタッフ3万人あまりの回答を集計・分析した。
結果を見ると、多様性が「かなり」拡大したのは、警備、施設、教育などの部門で、これらの部門は歴史的にも有色人種が多い。その一方、コロナ禍による雇用の損失が特に大きかったことが指摘されている。ただし、調査に参加した美術館は、20年以降これら全ての分野で人員を「飛躍的に」増やしたと回答している。
男女比はどうかというと、15年の第1回調査以来、男性40%、女性60%で一定している。美術館の指導的な役職については、女性の割合が15年の58%から22年には66%へと増加した。
メロン財団のエリザベス・アレキサンダー会長は声明を発表し、「進展は依然として遅く、ばらつきがあるものの、全米の美術館職員の内訳は、美術館を利用するさまざまなコミュニティの状況に近づいてきた」と評価。加えて、「今回の調査で明らかになった情報と分析が有効なツールとなり、また励みとなって、アメリカの美術館が各地の市民構成をよりよく反映するような芸術・文化施設となっていくことが期待される」と述べている。
有色人種の理事就任を阻む壁
メロン財団の報告書と同じ16日、美術館のための黒人理事会連合(BTA)による初の報告書も発表された。BTAは、「文化分野における黒人スタッフやリーダー層の就業・昇進をはばむ障壁を取り除く」ことを目的に21年に設立された組織で、パメラ・J・ジョイナー、デニス・B・ガードナー、同連合の共同代表であるレイモンド・J・マグワイアなど、世界トップクラスのコレクターが多数参加している。
BTAが発表した報告書「BTA 2022年美術館理事調査」には、北米の134の美術館から1人以上の理事が協力し、そのうち83の美術館では少なくとも1人の黒人理事が回答を寄せている。900人以上の理事による回答を集計したこの調査では、さらに20人の黒人理事に対する追加取材も実施した。プレスリリースによると、この報告書の目的は、「北米の美術館における黒人理事の特徴、役割、経験」に関するデータを提示することだという。
「BTAの第1回美術館理事調査報告書は、黒人の美術館理事の実態に初めてスポットライトを当てたものだ。黒人の美術館理事の人数が少ないことは周知の事実だったが、理事会のメンバー構成における人種間格差の程度は、これまで明確になっていなかった」と、報告書は指摘する。この問題に関する数少ないデータの1つが17年に米国美術館・博物館同盟が発表した調査結果で、このときは50%近くの組織の理事会で有色人種の理事は1人もいなかった。
BTAはなぜ有色人種の理事がここまで少ないのかを調べるため、メロン財団の支援を受けてIthaka S+Rと協力し、20人の黒人理事のインタビューを実施した。
その結果、ほとんどの場合、美術館の館長が自分の社会的・職業的な交友関係から理事を招く傾向が強いため、有色人種が理事就任を打診されること自体が少ないことが分かった。報告書では、理事候補を決める館長の交友関係は「人種的に階層化」されていると指摘されている。その結果、黒人の理事は白人の理事に比べ、家族がすでに同じ美術館の役員を務めているか、過去に務めたことがある人の割合は低い。
この報告書では、そのほかにもいくつかの重要な傾向が示されている。たとえば、黒人の理事は白人の理事に比べて年齢が若く、「前世代からの財産を引き継いでいる」ケースが少ないこと、博士号や専門職学位を持っている割合が高いこと、コレクションや作品獲得に関する委員会よりも、多様性、公平性、包摂性(DEI)を扱う委員会の代表である割合が高いことなどだ。
BTAが出した声明にはこうある。「公平な組織を作るには時間がかかります。今、私たちが目指す全体的な目標は明確ですが、目標に到達するための方法は明確ではありません。というのは、各組織がそれぞれの方法で運営されているからです。今後は、変化を把握するための指標を確立することが重要でしょう」(翻訳:清水玲奈)
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