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模写と思われていた絵画がボッティチェリの作品と判明! X線分析により当時と同じ画材を検出

フランスのサン・フェリクス教会に収蔵されていた聖母マリアの絵画が、ボッティチェリによるものであることが、美術史家が実施した分析によって明らかになった。この結果が発表されるまで、ボッティチェリの模写だと考えられていたが、使われていた絵具や下地が同じであったことから、本人によるものであることが判明した。

サンドロ・ボッティチェリ《Virgin Mary, Infant Christ, and the young St. John the Baptist》(1510年頃) Photo: Chanpaigny-En-Beauce ©Tony Querrec, GrandPalaisRmn

フランスのシャンピニー・アン・ボーソースのサン・フェリクス教会に収蔵されていた作品が、科学分析の結果、これまで世に出ていなかったサンドロ・ボッティチェリの絵画であることが判明した。これまで作者が明かされていなかったこの作品は、19世紀に作られたボッティチェリの傑作の模写だとこれまで考えられていたものだ。

この絵画は、幼子イエスを抱く聖母マリアと洗礼者のヨハネが描かれており、ボッティチェリと工房のアシスタントによって作られた《聖母子と幼児聖ヨハネ》(1490年頃)を基に描かれたと考えられている。

2010年、美術史家でキュレーターのマッテオ・ジャネセリは、作者が判明した絵画と、ボッティチェリの工房で制作された別の作品との類似性を指摘した。当時フランスの国立美術史研究所でイタリア美術を調査していたジャネセリは、同分野の専門家と協議し、2021年にジャックマール・アンドレ美術館で2つの作品を比較する展覧会を開催している。

こうしたなか、修復作業が行われていた2023年、フランスの研究者がマイクロサンプリングとX線分析を行い、この作品は1510年頃に作られたものだと特定。そして、ボッティチェリの工房に所属する複数の芸術家がこの作品の制作に参加し、ボッティチェリが聖母マリアの顔などに仕上げを加えたと推測している。これは当時としては珍しいことではなかったが、ボッティチェリは1510年5月に死去していることから、彼が作品にどれほど手を加えたかを明確に判断することは難しい。

その後、フランス美術館研究修復センターの科学者たちが実施した分析により、2つの作品がバーミンガムのバーバー美術館にあるオリジナル版と比較され、3つの作品はいずれも一致していたことが判明した。すなわち、いずれも卵テンペラ絵具と油絵具を使用し、下地としてジェッソを2層塗ってある。さらに、教会でこのほど発見された作品はキャンバスが2枚貼り合わされていたが、これはフィレンツェに所蔵されているバージョンと同じであり、使われている絵具にも類似点が見られた。

これ以外にも、今回発見された絵画には「パウンス」と呼ばれる技法で描かれていることが判明。この技法は、別の絵画の輪郭をなぞって穴を開け、穴の中にカーボン粉を塗ってキャンバスに転写する方法だ。

こうした分析結果から、サン・フェリックス教会で発見された絵画に描かれた3人の人物は、ボッティチェリの原画を基に描かれたバーバー美術館に収蔵されている作品をもとに描かれていることが判明した。

これら2作品を自分の目で見比べてみたい人にはジャネセリとエレーヌ・ルベデル=カルボネルによる共同企画の展覧会「Botticelli: Two Madonnas at Chambord」が、10月19日よりロワール渓谷のシャンボール城の礼拝堂にて開催され、VRコンテンツや動画コンテンツ、そして講演も予定されている。シャンボール城のディレクターを務めるピエール・デュブルイユは次のような声明を発表した。

「この二つの作品を展示できることをとても光栄に思います。これらのペインティングのおかげで、ロワール渓谷が、過去も現在も、イタリア人芸術家の影響から切って離せないなルネサンスの地であることが再認識できました」(翻訳:編集部)

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