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NYは巨大な人権教育の場──人道主義に反する人物を描いたパブリックアートに注釈追加の動き

ニューヨークには、約2500点ものパブリック・アートが存在する。中には、かつて奴隷制度や先住民への弾圧など人道に関する罪に関わった人物を描いた作品もある。これらをどう扱うか、という難題に対し、一つの解となり得る法案が提出された。

ニューヨークのコロンバスサークルに設置された、クリストファー・コロンブス像。2020年6月25日撮影。Photo: Getty Images

ニューヨーク市議会立法研究センターによると、同法案は、ニューヨーク市内のパブリック・アートを管轄する公共デザイン委員会(PDC)に対し、「同市の所有地に設置されたパブリックアートや人物の像の中で、奴隷を所有していたか奴隷制から経済的利益を得ていた人物、また、先住民族に対しての制度的犯罪やその他の人道に対する犯罪に加担した人物がモチーフの美術品」の所在を確認させるもの。その上で、PDCは作品を撤去するか、その作品の近くになぜその作品に問題があるとされるのかを説明するプレートを設置するよう要請している。同市の所有地の範囲には、学校も含まれる。

法案提出者18人のうちの1人、ブルックリン区第37市議会のサンドラ・ナースは、数千人のニューヨーカーが集結した2020年の「ブラック・ライブズ・マター」抗議デモに参加した活動家の一人だ。ナースはこの法案を、ニューヨークにおける人種差別とその歴史と闘うための考え方と戦術の進化だと考えている。

ナースは当時を振り返り、「デモに実際に参加して、皆と一緒に戦いたかったが、今は議員として、法律で何ができるかを考えなければならない」と話している。

ナースのこの見解は、選挙関係者や歴史学者が、有色人種のコミュニティにおける「微妙な変化」(小さくても重要な変化)と呼ぶものと一致する。コミュニティの擁護者たちは、怒りと破壊の代わりに、文脈と教育を求めているのだ。

ニューヨーク・エピスコパル教区の賠償金委員会の共同議長を務めたこともあるパブリックヒストリーの専門家であるシンシア・コープランドは、「今、人々の抗議活動に対する熱気は落ち着いています。きっと皆、少し距離を置いて一息ついたところにいるのだと思います」と見解を述べた。

ニューヨーク市のウェブサイトによると、PDCは、「美術品の維持、修理、撤去、移転、改造」や「美術品の諮問監督」を含む「ニューヨーク市所有の財産全般」を管轄する立場にある。この法案が可決されれば、PDCはニューヨーク市が所有する2500点ものパブリックアートのうち、どの作品がそれに該当するのか、一つひとつの歴史を調査していく必要がある。これは簡単なことではない。

彫像や記念碑の撤去はデリケートな問題であり、人々の感情や文化的アイデンティティに触れることが十分に考えられる。何年もの間、アメリカ先住民の間では、先住民を大量虐殺したとされるクリストファー・コロンブスの銅像を撤去するよう求めてきた。一方、イタリア系アメリカ人は、新大陸への移民の象徴としてコロンブスを称えてきた

法案により論争の的になっているモニュメントに注釈が加えられ、維持されることは、市にとって恩恵であり、市民を教育するために大いに役立つだろうと考えるコープランドは、次のように語る。

「ニューヨークは、モニュメントやランドマークがたくさんある巨大な街です。素晴らしい教育の場であり、実験室とも言えるでしょう」(翻訳:編集部)

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