アートに触れる機会を全ての人に。ブロード美術財団に聞く「作品ライブラリー」について
アートコレクションを多くの人と共有するには、作品を美術館に貸し出すというすばらしい方法がある。その現場を知るために、世界的な権威であるブロード美術財団に取材した。
イーライ&エディス・ブロード夫妻は、可能なかぎり幅広い人たちに現代アートを見る機会を提供することを目指して1984年に自らの名前をつけた美術財団を設立し、作品を貸し出すライブラリーを運営している。
ARTnews:ブロード夫妻が美術品ライブラリーを始めた理由は?
ブロード美術財団:イーライ&エディス・ブロード夫妻は50年以上にわたり、ロサンゼルスをはじめ世界中でアートと文化に接する機会を充実させるために尽力してきました。現代社会の問題に関するアーティストの洞察を体験するチャンスを、誰もが与えられるべきだという信念に基づいてのことです。
美術館までの作品輸送はどのように行われていますか? 美術館側が全ての費用を負担するのか、それとも財団が一部負担するケースもあるのでしょうか?
借り手の美術館は、全ての会場で展示期間中に発生する作品の梱包(こんぽう)、輸送、設営作業、保険の費用を全額負担することが求められます。借りる側が輸送を手配するのですが、The Broad(ザ・ブロード、ブロード夫妻が設立した美術館)の所蔵品管理スタッフが指導と承認を行います。
保険の仕組みはどうなっていますか? 作品には(財団側と借り手側の)二重の保険をかけなくてはならないのでしょうか?
借り手の美術館が、財団のライブラリーの壁から美術館の展示室の壁まで、全プロセスに保険をかける責任を負います。
輸送中も、貸出先の美術館でも、作品に損傷が発生するような事態はあってはならないことですが、万一そのような事態が起きたらどのような手続きが取られるのでしょうか?
もしも損傷が起きたら、財団側の所蔵品管理スタッフがただちに報告を受けるよう定められています。そして状況を判断し、対応を決めます。借り手は財団の指導に従い、修復・保存のための費用を負担します。
財団が美術館に対する貸し出しを認可するにあたって、検討するのはどのような要素でしょうか?
まず、要望されている作品について、他の美術館に貸し出されたり、ブロード美術館で展示されたりする予定がないことを確かめます。それから、作品の壊れやすさ、安定性を評価し、輸送の衝撃に耐えうるかどうかを判断します。さらに、財団側の所蔵品管理スタッフが美術館の設備についての報告書を審査し、安全管理、温度管理、取り扱い、保険について基準を満たしているかどうか確認します。借り手は、貸し出し契約のすべての条項を満たさなくてはなりません。
作品を貸し出すことには、どのような利点がありますか?
イーライは、アーティストや美術館、ギャラリー関係者との交流の中で、世界の多くの個人コレクションが保管庫にしまい込まれたままであること、また、公的機関は大規模なアートを収集するうえで個人コレクターのスピードと手段にほとんど太刀打ちできないことを知りました。財団の貸し出しプログラムはこうした問題に取り組み、作品へのアクセスを広げるねらいがあります。
あるアーティストは、コロラド州の自宅近くにあった小さな美術館で生まれて初めてアートを鑑賞し、天職を見つけたとエディスに語ったのだそうです。エディスにとって、それがまさに「財団が手助けできるような体験」であり、財団の使命の中で最もやりがいを感じていることです。今後も財団は貸し出しプログラムを通して、現代アートを広く紹介していきます。これまでに世界中の600あまりの美術館に8700点を超える作品を貸し出しているほか、ブロード夫妻の個人的なコレクションから厳選した作品の貸し出しも行っています。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年10月14日に掲載されました。元記事はこちら。