南アフリカがヴェネチア・ビエンナーレ出展を見送り。代表作家は「危険な前例」として控訴へ
第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(5月9日〜11月22日)で、南アフリカ館が出展を見送ることが明らかになった。前年に代表作家として選出されたガブリエル・ゴリアスの企画が中止されたことを受けての決定だ。
5月9日に開幕する第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で、南アフリカ館は出展を見送る決定を下した。アート・ニュースペーパーが伝えた。
南アフリカは昨年、同展の代表作家にガブリエル・ゴリアス(Gabrielle Goliath)を選出していた。ゴリアスとキュレーターのイングリッド・マソンドは、継続中のシリーズ「エレジー(Elegy)」からの作品をパビリオンで発表する予定だった。ゴリアスのウェブサイトによれば、同シリーズは「記憶し、修復し、ブラック・フェミニズムの愛を実践するための継続的な労働」をテーマとしている。
ヴェネチア版の「エレジー」は、南アフリカにおける女性やクィアの人々の殺害、さらにナミビアおよびガザにおける女性への暴力にも言及する内容だった。そこには、2023年10月にイスラエル軍の空爆で死亡したパレスチナの詩人ヒバ・アブ・ナダの言葉を題材にしたセクションも含まれており、それが問題視された。
12月22日、南アフリカの右派的立場をとるスポーツ・芸術・文化相ゲイトン・マッケンジーは、組織委員会宛ての書簡で、アブ・ナダを取り上げた同作を「きわめて分断的」と指摘。該当部分の変更を求めたが、ゴリアスがこれを拒否したため、2026年1月2日、マッケンジーはゴリアスの代表選出を撤回した。
これに対し、ゴリアスとマソンドは「表現の自由の権利が侵害された」と主張。パビリオン中止の決定を覆すため、南アフリカ高等裁判所に緊急申し立てを提出した。しかし2月18日、高等裁判所のマモロコ・クブシ判事は彼女らの訴えを棄却。判事は判断理由を示さず、判決文には「記録に提出された書面を読み、弁論を聴取し、本件を検討した結果、申し立てを棄却する」とのみ記されていた。
判決後、スポーツ・芸術・文化省(DSAC)の報道担当ステイシー=リー・コジャネは、今回のヴェネチア・ビエンナーレで南アフリカ館は政府支援による展示を行わないと正式に発表した。結果として、同館は空館となる見通しだ。
アート・ニュースペーパーの取材に対し、ゴリアスはチームが控訴の手続きを進めていると説明し、次のように述べた。
「私たちは、この判決が南アフリカにおけるアーティスト、キュレーター、そしてクリエイティブに携わる人々の表現の自由──異議を唱える自由──を損なう危険な前例をつくると考えます。私たちはこの判決を争います」
一方、南アフリカの美術界からも判決に対する強い憤りの声が上がっている。その一人が、2025年にケープタウンのイジコ南アフリカ国立美術館で開催された回顧展において、黒人女性の表現などに対する懸念を理由に、開幕直前に11点の作品が黒布で覆われるという別の検閲論争の中心となったアーティストのスティーヴン・コーエンだ。コーエンは今回の判決について次のように語っている。
「この判決は、アーティストとして単に嘆くべき出来事というだけではありません。むしろ異議を唱えるべきなのです。とりわけ、表現の自由がますます抑え込まれているこのリスク回避的な時代においては、なおさらです」
また、クワズール・ナタール大学創造芸術センターのディレクター、イスマイル・マホメドも、「このニュースは芸術分野において、落胆、怒り、そして極度の失望をもって受け止められています」とコメントしている。(翻訳:編集部)
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