伝説のトレーダーで美術商、ロバート・ムニューシンのコレクションが競売へ。約160億円のロスコ大作も
30年以上在籍したゴールドマン・サックスで「ブロック取引の先駆者」と称えられ、その後アートディーラーに転身したロバート・ムニューシンのコレクションから、マーク・ロスコやウィレム・デ・クーニングなど戦後抽象の名品24点がサザビーズに出品される。
サザビーズは、2025年12月に92歳で亡くなったディーラー兼金融家で、第1次トランプ政権で財務長官を務めたスティーブン・ムニューシンの父としても知られるロバート・ムニューシン(Robert Mnuchin)のコレクションから24点を、今年5月にニューヨークで開催するオークションに出品する。昨年11月の大型セールと今春の好調なスタートに続き、同社はこれらブルーチップ作品の重要作品で今シーズンも勢いの維持を狙う。
ロバートが妻のアドリアナとともに本格的にアート収集を始めたのは1970年代のこと。やがて、「私たちは抽象に強く惹かれることに気づいた」として、抽象絵画、そして戦後ニューヨーク派の作家たちへと関心を深めていった。
同コレクションは、戦後抽象絵画と近代美術の美術館級作品に焦点を当てていること、そして、その規模が小さいことでも長年コレクターの間で知られてきた。ムニューシンはかつて、夫妻が所有する作品は「10点から15点ほど」に過ぎないと語っていたが、彼自身が認めているように、それらはいずれも例外的な質の作品であり、倉庫ではなく自宅に飾られていた。
目玉は1957年のロスコ《Brown and Blacks in Reds》
今回のセールの目玉となるのは、マーク・ロスコによる1957年の大作《Brown and Blacks in Reds》で、予想落札価格は7000万〜1億ドル(約111億〜159億円)。また、1949年制作の《No. 1》も、予想落札価格1500万〜2000万ドル(約24億〜32億円)で出品されるという。
高さ約2.4メートルの《Brown and Blacks in Reds》は、ロスコが表現を確立した最重要の10年間に制作された作品で、発光するように重なり合う色帯が特徴的な画面構成を示している。画家が好んだ赤系パレットで描かれた本作は、のちにロスコにシーグラム・ビルのための壁画を依頼することになる酒造会社ジョセフ・E・シーグラム&サンズが所有していた。サザビーズによれば、この作品はロスコが1957年に制作した巨大サイズの絵画15点のうちの1点であり、現在、その多くは美術館に収蔵されている。
もう1点の《No. 1》は、ロスコのキャリア過渡期における重要作品だ。1940年代後半に見られる霧状の「マルチフォーム」構成から、後に象徴的となる矩形の色面絵画へと移行していく過程を示している。
デ・クーニンとクラインの重要作も
今回のセールでは、ほかにもムニューシンがキャリアを通じて支援してきたウィレム・デ・クーニング、フランツ・クライン、ジェフ・クーンズらの作品も出品される。とくに、デ・クーニングの叙情的な絵画《Untitled XLII》(1983)は今回がオークション初出品であり、近年市場に登場した作家晩年期の作品として最重要なもののひとつとされている。
また、クラインの《Harleman》(1960)は、作家のキャリア絶頂期に制作された大型作品で、20年以上にわたりムニューシンのコレクションに収められてきた。近年オークションに登場する同作家の作品として最も重要な例のひとつになると見られている。
今回のセールは、サザビーズは昨年後半に築いた勢いを維持しようとしているタイミングに重なる。昨年11月には、グスタフ・クリムトの《エリザベート・レーデラーの肖像》(1914–16)が2億3640万ドル(約367億円)で落札され、オークションにおける近代美術作品の最高額を更新すると同時に、サザビーズ史上最高額の作品となり大きな話題を呼んだ。
また今春のセールでも、すでに好調な兆しが見えている。今週初めにロンドンで行われたサザビーズのモダン&コンテンポラリー・イブニングセールは「ホワイトグローブ(全ロット落札)」を達成し、総額は前年の同等セールの2倍以上となる約1億7500万ドル(約278億円)を記録した。
市場関係者の多くにとって、このムニューシン・コレクションは、ここ数シーズン不安定だったハイエンド市場が安定を取り戻すなかで、オークションハウスが確保したいと考える「トロフィー級」の出品の典型例といえる。
サザビーズが金曜日に発表したところによると、これらの作品は、5月に11ロットからなる単独イブニングオークションとして提示される予定。さらに追加作品がモダン&コンテンポラリーのデイセールにも出品される。
金融とアート、二つの世界で才覚を発揮
1933年ニューヨークに生まれたムニューシンは、アート界では珍しく、二つのキャリアを最高レベルで築いた人物だった。33年間にわたり勤務したゴールドマン・サックスで、ブロックトレーディングの先駆者の一人として知られた。その後アートディーラーに転身し、1992年にニューヨークでC&M Artsギャラリーを共同設立。後にL&M Artsギャラリーを経て、マンハッタンのアッパーイーストサイドでムニューシン・ギャラリー(Mnuchin Gallery)を立ち上げ、ロスコやデ・クーニングなどの作家に焦点を当てた美術館級の展覧会を開催してきた。
しかし、ムニューシン自身は常にディーラーよりもコレクターとしての側面を強調していた。「私はディーラーでもあるコレクター、というのが本当のところだ」と、彼は2015年にARTnewsのインタビューで語っている。
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