イスラム教預言者ムハンマドの肖像画を授業で使った大学講師がクビ。「学問の自由」論争が再燃
2022年10月、アメリカ・ミネソタ州のハムライン大学で、ある非常勤講師が授業でイスラム教を創始した預言者ムハンマドの肖像画を紹介し、学内で大論争が起こった。これを受け、大学は12月末にこの非常勤講師との契約を更新しないことを発表。学問の自由について議論が激化している。
学内メディア、The Oracleが報じたところによると、「学問の自由」論争の発端は、仮想美術史の授業で非常勤講師が、14世紀と16世紀に描かれた預言者ムハンマドの正典とされる2枚の肖像画を生徒に見せたことだった。
イスラム教において、偶像崇拝の禁止は徹底されている。授業を録画した映像には、この講師が冒頭で、イスラム教の学生が宗教上の理由でこれら肖像画を閲覧しないことを認める説明を2分にわたり行っていたことが記録されている。
講師は、「ムハンマドの肖像画を見せるのには理由があります。イスラム教では、聖なる人物の描写を完全に禁止しているという通念があります。しかし、多くのイスラム文化が徹底しているこの習わしが、絶対的なものではないことを忘れないでほしいのです」と話している。
この授業を受けた学生と同大学のイスラム学生協会のメンバーは、同大学に対して、管理が不行き届きであると訴えた。これを受け、副学長は大学職員に宛てたメールで、講師の行為は「紛れもなく無礼」「イスラム嫌悪」であると説明。しかし大学関係者は、学問の自由よりも学生側の訴えを優先させたとして、公的機関や内部での声明で、当該講師を擁護している。同校では過去に、学内でイスラム教信者を優遇しているのではないかという議論が起こっている。
ハムライン大学のフェイニーズ・ミラー学長は声明で、「授業での出来事に対する我々の対応は、学問の自由を軽視したり、抑圧するものではありません。しかし、授業が宗教上やその他の違いに対する敬意、良識、理解に対して明らかに害をもたらすと判断される場合、それを容認すべきではありません」と述べている。
大学キャンパスで宗教的イメージの扱いを巡る論争が表面化したのは、今回が初めてではない。2015年、ミネソタ大学で開催された、フランスの週刊風刺新聞シャルリー・エブド襲撃事件を受けてのパネル展で、同紙が掲載した預言者ムハマンドの風刺画を使った宣伝ポスターを配布し、批判を浴びている。
アメリカに拠点を置くイスラム美術を専門とする学者や学術擁護団体からは、講師の契約解除の動きは学問の自由に対する冒涜であると非難が起こっている。また、表現の自由を守るために大学教育者によって結成されたNPO団体、 Academic Freedom Allianceは声明で、「この解雇は、学問の原則に対する著しい違反だ」と主張する。
歴史家のクリスティーナ・グーバーは、New Lines Magazineの記事の中で、The Oracleのウェブサイトに掲載された、宗教学教授による預言者像の歴史的背景に関するエッセイがその後削除されたことを「検閲」だと表現し、大学での「言論の自由に関する深刻な懸念」を生じさせると続けた。非営利団体である、個人の権利と表現のための財団は、先週、講師の復職を求める公開書簡を同大学に送った後、1月4日に解雇に対する訴状を提出している。(翻訳:編集部)
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