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  • 2023.01.12

ART SGについて知っておくべき6つのポイント:5度の延期の理由から地域性、チケット価格まで

2022年9月に初開催されたフリーズ・ソウルの成功以後、アート界の関心は東南アジアに移った。というのも、目覚ましい経済発展を遂げたシンガポールで、待望の国際アートフェア、ART SGの第1回が開催中だからだ。

第1回ART SGの会場、マリーナベイ・サンズ・エクスポ&コンベンションセンター。Photo: Courtesy Marina Bay Sands

ART SGがこれほどまでにアート業界の話題をさらっている理由はなんだろう? アジアではすでに多くの国際アートフェアが開催されているが、他のアートフェアとはどこが違うのか。というわけで、この最新アートフェアについての疑問を解き明かしていこう。

1. そもそもART SGとは?

ART SGは、国際的フェアの大手企業、アート・アセンブリーが運営するアートフェアの1つだ。同社は、アートフェア業界で長年活躍しているサンディ・アンガス、ティム・エッチェルズ、マグナス・レンフリューといった経営陣のもと、アジア太平洋地域に特化してアートフェアを開催している。そのラインアップには、台北當代、India Art Fair、Sydney Contemporary、PHOTOFAIRS Shanghaiがあり、今年7月には東京現代が初開催される。

これらのフェアは、開催都市やその周辺地域のアートマーケットに関連する作品・プログラムを提供する一方で、ホワイトキューブガゴシアンデビッド・ツヴィルナーなど世界の一流ギャラリーが参加する国際的なフェアとして知られている。アート業界全体の傾向としては、2010年代後半に「フェアティーグ(fairと倦怠感を意味するfatigueを掛け合わせた造語)」と呼ばれるアートフェア疲れが指摘され、最近ではコロナ禍によるフェアの中止が相次いだが、その間もアート・アセンブリーはアジアを舞台に順調にフェアを成長させてきた。

ART SGの共同設立者マグナス・レンフリューと、同フェアのディレクター、Shuyin Yang。Photo: Joyce Yung

2. 度重なる延期の理由は?

ART SGは2018年7月、アート・バーゼルの親会社であるMCHグループとアンガス・モンゴメリー・アーツのサンディ・アンガス、イベントオーガナイザーのティム・エッチェルズによる共同事業として発表された。当初はサンズ・エクスポを会場として、2019年11月1日から開催される計画で、80あまりのギャラリーの参加が予定されていた。

しかしMCHグループは、長年CEOを務めたルネ・カムの辞任や財政難などの問題から、2018年末にART SGを含め、出資していた複数のアートフェアから撤退。そのため、ART SGは2019年11月後半への延期を余儀なくされた。

シンガポールでは、アート・ステージ・シンガポールが国際的なマーケットを視野に入れた大規模アートフェアとして開催されていたが、2019年1月の開催直前に中止が発表されるという異例の事態が起きた。ART SGはその数カ月後、初回の開催を2020年10月に延期すると発表。主催者側は、準備に時間が必要というギャラリーからの要望に基づいて募集期間を延長したと説明したが、アート・ステージ・シンガポールが財政破綻したというニュースが、シンガポールという新興アート市場に対する信頼を揺るがしたことは明らかだった。

それに続くコロナ禍で、さらに2021年11月に延期されることとなったが、2021年2月には4度目の延期が決まり、会期は2022年1月に。公式には毎年恒例のシンガポール・アート・ウィークに合わせるためと説明されたが、コロナ禍による入国規制や人的交流の制限も懸念材料になったと考えられる。

しかし、2021年11月になっても出展ギャラリーのリストが発表される気配はなく、パンデミックによる世界的なサプライチェーン悪化の煽りを受けて、結局2023年1月への延期が発表された。

シンガポールとシドニーに拠点を置くYavuz Galleryが、ART SGでお披露目するAlvin Ongの《Baby》(2022)。Photo: Courtesy the artist and Yavuz Gallery

3. なぜシンガポール?

面白いのは、ART SGが何度も延期された結果、シンガポールの新興アート市場にかつてない関心が集まったこと。それによって、グローバル企業や富裕層の多くが、アジアのアート市場の中心地として長く君臨し続けてきた香港を離れ、シンガポールに移ったのだ。もちろん、シンガポールのコロナ規制の透明性や、国際金融ハブとして長年にわたり築き上げてきた信頼がその背景にあるのは明らかだ。

大手オークションハウス、フィリップス・アジアのジョナサン・クロケット会長は昨年、US版ARTnewsにこう語った。「ポストコロナで世界的交流が再開される中、シンガポールはグローバルかつ先進的な経済都市として浮上しており、アジア全域から富裕層コレクターがますますこの街に集まり、拠点としている様子が見られます」

確かに、この1年だけでもさまざまな動きがあった。サザビーズは10年以上のブランクを経て、シンガポールでのオークションを開催。他の大手オークションハウスもシンガポールでプレビューを行い、顧客との関係構築に努めている。MCHグループはART SGの少数株主持分の株を買い戻し、アート・バーゼルが提携した地元のブティックフェア、S.E.A. Focusも1月6日から15日まで開催中だ。

盛り上がりは、ART SG出展者リストからもうかがえる。2022年6月の発表時点で、参加ギャラリーの数が2018年当時の80社から倍増したのだ。また、ART SGの会期に合わせ、WOAWギャラリーと東京のホワイトストーン・ギャラリーがシンガポールに支店をオープン。ニューヨークのリーマン・モーピンは、東南アジアでのビジネスを統括する責任者として、シンガポール在住のディレクターの起用を発表した。

デビッド・ツヴィルナーがART SGに出展するキャサリン・バーンハートの《Ashwagandha》(2022)。Photo: ©Katherine Bernhardt/Courtesy the artist, David Zwirner, and Canada

4. 入場券の値段は?

平日通し券は35シンガポールドル(約3500円)、週末通し券は40シンガポールドル(約4000円)。フリーズ・ソウルの一般入場料7万ウォン(約7000円)より安く設定されているが、フリーズ・ソウルの場合、入場券を持っていれば姉妹フェアのキアフ・ソウルにも入場できるという特典がある。

5. ART SG以外のシンガポールの主要なアートフェアは?

2011年に始まったアート・ステージ・シンガポールは、東南アジアのアートや作家に関心のある国際的なコレクター、アート関係者の関心を集めたことで、成功を収めた。しかし、開催コストがかさんだこと、運営責任者の問題、参加ギャラリーが減少したことなどから苦戦を強いられ、結局は破綻した。

アート・ステージに代わって2019年にスタートしたS.E.A Focusは、主にシンガポールと東南アジアのギャラリーに焦点を当てた小規模なアートフェアとして、その地位を確立しつつある。地元アートシーンの中心的存在であるSTPIクリエイティブ・ワークショップ&ギャラリーとシンガポール国立芸術評議会の運営により、近年シンガポールのアート集積地になっているタンジョン・パガー・ディストリパークで2週間にわたって開催される。なお、S.E.A Focusがアート・バーゼルと提携して2年になる。

さらに、Affordable Art Fair Singaporeは2017年に年2回から1回の開催に変更することを発表。これは、シンガポールのアートフェアがいずれも経営難に陥り、一部は閉鎖に追い込まれた時期と重なる。同フェアもコロナ禍による3年間の休止を経て、2022年秋に久しぶりに開催され、450万シンガポールドルの売上を記録。初日で完売するブースも出るといった好調ぶりを見せた。

アートSGに参加する東京のタカ・イシイギャラリーが展示するのは、オスカー・ムリーリョの《manifestation》(2020-21)。Photo: Tim Bowditch and Reinis Lismanis/©Oscar Murillo/Courtesy the artist and Taka Ishii Gallery

6. フリーズ・ソウルやアート・バーゼル香港との違いは?

ART SGは、グローバルなアートフェアと呼ぶべき特徴をすべて備えているが、同時に、世界で最も多様でダイナミックなアートシーンを抱える東南アジア全域とのつながりを重要視している。

そこで参考になりそうなのが、インドネシアのジョグジャカルタ(ジョグジャの通称で知られるインドネシアの古都。芸術が盛んなことで知られる)で、2008年から毎年開催されているArtJogだ。アーティスト主導で開かれており、東南アジアで最も人気のあるアートフェアのひとつに数えられる。

ArtJogはギャラリーがブースを出展するという一般的なアートフェアの形式を取っていない。言ってみれば、作品を展示販売する現代アートの祭典だが、キュレーションの質が高く、優れたアーティストたちのコミュニティが参加していることから、アジア太平洋地域からの来場者を魅了し、長年にわたって高い評価を得てきた。

ART SGの地域文化との深いつながりや独自性が、定型化が進む巨大アートフェアに新鮮な風を吹き込んでくれることを期待したい。(翻訳:清水玲奈)

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