巨匠ニーマイヤー設計のブラジル大統領官邸、ボルソナロ時代に荒廃。美術品も紛失か
ブラジルの議会や大統領府をボルソナロ前大統領の支持者が襲撃し、同国では各地で警戒が続いている。そんな中、ボルソナロ前大統領の任期中に、ブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤー設計の大統領官邸がひどく破損していたことが話題になっている。
ブラジルの放送局GloboNewsは1月5日、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ新大統領の妻、「ジャンジャ」ことロサンジェラ夫人がブラジリアの大統領官邸を案内する様子を伝えた。
「この建物はブラジルを象徴する非常に大切な建築だが、全体的に状態はよくない。かなりの修繕が必要になるだろう」と政治記者がリポートする通り、破れたじゅうたんやソファー、割れた窓ガラスや床板、水漏れの跡が残る天井など、内部は荒れ放題。飾られている美術品も傷んでいた。
たとえば、ブラジルの著名なモダニズムアーティスト、エミリアーノ・ディ・カヴァルカンティが制作したタペストリーは、元の設置場所だった図書館から移動され、日が当たるところに掛けられていたため修復が必要だ。また、官邸から持ち去られた美術品も複数あると見られている。
大統領夫人は、官邸の荒廃ぶりに失望し、動揺したという。夫が過去の大統領在任中(2003年〜2010年)に植えたブラジル原産のサボテンも撤去されていた。
アルボラーダ宮殿(夜明けの宮殿の意)という通称で親しまれている大統領官邸は、ニューヨークの国連本部ビルを手がけたことでも知られるブラジルのモダニズム建築の巨匠、オスカー・ニーマイヤーが設計したもの。世界遺産に登録された首都ブラジリアを構成する重要な建築の1つで、1958年に完成している。
ボルソナロは、1月1日のルラ新大統領の就任式前夜に国外に逃亡した。現在はフロリダにいるが、複数の案件がブラジル最高裁で審議されている。その中には新型コロナ対策を軽視したことによる感染爆発に関連するものも含まれる。ブラジルは、新型コロナで70万人近い死者を出した。
ブラジルのニュース誌、Istoéの報道によると、ボルソナロはイタリア政府に圧力をかけて自分と家族のイタリア市民権を取得し、同国への移住でブラジルでの服役を免れようと画策しているという。しかし10日にイタリア政府は、ボルソナロはイタリアの市民権を申請していないとし、申請しても受理されないだろうとの見方を示した。
ボルソナロは大統領選前から、根拠なく不正投票の可能性を主張。これを支持する暴徒が8日に首都を襲撃し、大統領府(通称プラナルト宮殿)や議会、最高裁判所などモダニズム建築の傑作が破壊されている。(翻訳:平林まき)
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