略奪美術品返還の動きが世界的に加速。フランス文化省は「史上初」を含む3法案を提出
フランスで、同国の公的機関に収蔵されている美術品などの返還を促す、3つの法案が提出される。可決されれば、議会による個別の承認なしに、国家コレクションから美術品や遺骨を返還できるようになる。
この3法案は、「遺骨の返還(*1)」、「ナチス時代にユダヤ人から不当に奪った美術品の返還」、「かつての植民地などで略奪された文化財の返還」の推進を目的としたものだ。法案の発表を行ったフランス文化省は、上記のうち2つ目について、第2次世界大戦中にフランスがユダヤ人に対して行った国家的犯罪を法的に認める歴史上初の法案になると述べている。
*1 2022年にフランスの元老院(上院)議員によって提案された法案の修正版。
美術品返還に関する法案作成を監修しているのは、ルーブル美術館元館長のジャン=リュック・マルティネズだ。彼は、古美術品売買に関連した「組織的詐欺と資金洗浄の共犯」の容疑で起訴され、フランスの文化遺産大使としての職務を停止されている。
フランスではここ数年、アフリカ諸国から不当に持ち出された文化財の返還に向けた動きが加速している。エマニュエル・マクロン大統領は2017年に、かつてフランスの植民地だった国々との関係向上のため、文化遺産返還を公約した。2018年には、アフリカの文化遺産返還に関するサール=サボイ報告書が作成されている。同報告書によると、フランスの公的な展示施設に収蔵されているアフリカの文化財は、およそ9万点にのぼるという。
マクロン大統領の最初の公約以降、世界遺産に登録されているベナンのアボメイ宮殿群から持ち出された26点の文化財が同国に返還された。このほかにも、1点がセネガルに返還され、1点がマダガスカルに長期貸与された。しかし、フランスによるこうした略奪品返還のペースは、他のヨーロッパ諸国に比べ遅い。
フランスのリマ・アブドゥル・マラク文化相は、1月16日に行った新年のスピーチで、「2023年は、一段と早く返還が進む年にしたい」と述べ、歴史に対するフランスのアプローチは、「否認でも悔い改めでもなく、事実を認めるもの」でなければならないと付け加えた。
遺骨の返還をめぐっては、2022年にPierre Ouzoulias、Catherine Morin-Desailly、Max Brissonの3人の元老院(上院)議員が法案を提出している。このとき満場一致で可決されたものの、マクロン政権の閣僚に阻止され成立しなかった。この件の修正法案は、6月までに採決される見通しだ。
新法が成立すれば、フランスと返還を求める各国の科学・法律の専門家で構成される特別委員会が設立される。フランスの国家コレクションから収蔵品を除外すべきかどうかはこの委員会が判断し、その後は行政が国会を通さずに返還の可否を決める。
不当に奪われた可能性のある美術品や遺骨などの総数は今のところ不明で、今後フランス政府は目録を作成するなどしてこれを把握する必要がある。
フランスは、ナチス時代にユダヤ人から奪った美術品を返還している。また、ジャック・シラク元大統領は当時の反ユダヤ主義的な法律に関し、国家としての責任を公式に認めた。だが、今のところフランス議会はそれらの過ちを法的には認めていない。(翻訳:野澤朋代)
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