イスラエル、ヨルダン川西岸の遺跡管理を強化へ。「併合につながる」と人権団体は非難

イスラエルが、占領下のヨルダン川西岸地区で遺跡や考古遺産の管理を強化する法案を推し進めている。新設機関に広範な権限を与える内容で、人権団体は併合の一環だと警告する。

ヨルダン川西岸地区ナブルス西方に位置するセバスティアの考古遺跡。Photo: JAAFAR ASHTIYEH / AFP via Getty Images
ヨルダン川西岸地区ナブルス西方に位置するセバスティアの考古遺跡。Photo: JAAFAR ASHTIYEH / AFP via Getty Images

5月12日、イスラエルは占領下のヨルダン川西岸地区で、遺跡や考古遺産の管理権限を強化する法案を推し進めた。人権団体は、この動きがパレスチナ領土の事実上の併合につながりかねないとして警告している。

イスラエルの日刊紙ハアレツによれば、与党リクードが支持するこの法案は、エルサレム問題・遺産大臣の管轄下に新たな政府機関を設けるというもの。この機関には、土地の購入や収用を行う権限も与えられるという。設立が検討されている「ユダヤ・サマリア(*1)遺産局」は、同地の遺産、遺物、考古学に関わる事項を一括して担うとされる。その対象には、ヨルダン川西岸地区民政局で、イスラエル国防軍が任命した考古学担当将校の管理下にある遺跡や発掘現場の調査・監督も含まれる。

*1 イスラエル政府が、占領下のヨルダン川西岸地区を指す際に好んで用いる聖書由来の呼称。

法案成立には、クネセトで3度の読会を通過する必要がある。5月12日の第1読会では、賛成23、反対14で可決された。最終的に成立した場合、新設される「ユダヤ・サマリア遺産局」の管轄権は、イスラエルが全面的に管理する「C地区」に加え、オスロ合意の下でパレスチナ自治政府の文民統治下に置かれている「B地区」にも及ぶことになる。同案の規定では、自然保護区の管理・維持は引き続き現在の軍管轄部隊に委ねられる。一方で、それ以外の権限争いについては同局が最終的な判断権を持ち、聖地の管理運営に関する事項もイスラエル法の下で扱われるという。

新組織のトップには、超国家主義政党「ユダヤの力」のメンバーであるアミハイ・エリヤフが想定されている。ヨルダン川西岸地区の併合を声高に主張してきたエリヤフは、今年2月、サルタバの考古学遺跡の頂上でイスラエル国旗を掲げ、その様子も写真に収められている

さらに、同遺産局のための新たな公的評議会の設立も提案されており、そのメンバーは遺産相によって任命される。また同局は、評議会の承認を得たうえで、特定の遺跡の管理を地方自治体や企業に委任できるようになるという。

考古学を専門とするイスラエルのNGO「エメク・シャヴェ」は、この法案について、遺産の統治と管理からパレスチナ人の参加を構造的に排除するものだと非難している。さらに、法案が成立すれば「ヨルダン川西岸地区全域の遺跡の併合を意味し、パレスチナ人がこの土地と文化に対して持つ権利を容赦なく踏みにじる」と指摘し、イスラエルの国際的地位にも悪影響を及ぼすと警告した。

占領下のヨルダン川西岸地区における考古学は、パレスチナ人とイスラエル入植者の間にある広範な領土問題の一部として、しばしば政治問題化されてきた。2023年9月、ユネスコがエリコにある先史時代の遺跡テル・エッ=スルタンを世界遺産に登録すると、一部の極右イスラエル政治家や団体から批判の声が上がった。報道によれば、これらの政治家や団体は、イスラエルの管理下にあるエリコ近郊の考古学遺跡ハスモン宮殿で会合を開き、この指定に抗議した。ハスモン宮殿は、新たに整備された「観光的入植地」内に位置しており、その整備は世界遺産保護の取り組みとして位置づけられている。

ここ数カ月、パレスチナ当局と住民は、ヨルダン川西岸地区でイスラエル側による侵奪がエスカレートしていると訴えている。そうした事例の一つが、約3500人のパレスチナ人が暮らすローマ時代の考古学遺跡セバスティアで、入植者グループによる襲撃が繰り返されているという報告だ。またイスラエル当局は、聖書の記述や、紀元前9世紀から8世紀にかけてセバスティアが北イスラエル王国サマリアの首都だったことを根拠に、この地域をイスラエル領として再指定しようとしている。

ハアレツ紙は、法案審議に関わるクネセト教育委員会に提出された意見書の一部を抜粋して報じている。意見書は、イスラエルのこうした政策が、考古学遺跡の近くに暮らすコミュニティに深刻な影響を与えると警告し、次のように述べている。

「ほぼすべての村やコミュニティに、考古学的監督を必要とするさまざまな規模の考古学的・歴史的遺物が存在すると想定されている。監督範囲の拡大は、人種差別的で破壊的な政策を推し進めるための大きな突破口を生み出すのだ」

(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい