再評価が進むスイス人画家が見つめた京都──「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」【EDITOR’S NOTES】

ベルリンを拠点に活動したカール・ヴァルザーの全貌を紹介する回顧展「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」が、東京ステーションギャラリーで開催中だ。象徴主義絵画から舞台美術まで幅広く手がけたヴァルザーの作品群のなかで、とりわけ印象に残ったのは、約半年の日本滞在で描かれた京都の風景だった。

カール・ヴァルザー《祇園祭、京都・八坂神社》(1908) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
カール・ヴァルザー《祇園祭、京都・八坂神社》(1908) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery

ベルリンを拠点に活動したスイス人画家、カール・ヴァルザー(1877-1943)の全貌を紹介する回顧展「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」が、東京ステーションギャラリーで開催中だ。本展では、象徴主義絵画から舞台美術まで幅広く手がけたヴァルザーの仕事を、約150点の作品群とともに紹介する。出品作品はいずれも日本初公開となる。

母国スイスでは現在、ヴァルザーへの再評価の機運が高まっている。そのきっかけとなったのが、2008年に新ビール美術館で開催された展覧会「日本でのカール・ヴァルザー 1908年の旅」だ。画家の日本滞在に焦点を当てたこの企画が、ヴァルザーへの関心を改めて呼び起こした。

19世紀末から20世紀前半にかけて活動したヴァルザーは、マックス・リーバーマン率いるベルリン分離派に参加した。既存の芸術協会や画壇に対抗するように生まれたこのグループには、エドヴァルド・ムンクエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーといった作家も名を連ねていた。

初期の代表作に数えられる《婦人の肖像》(1902)や《隠者》(1907)に見られるように、ヴァルザーは象徴主義的な作品を多く残した。本展ではそうした初期作品から円熟期の制作までたどることができるが、なかでも印象に残ったのは、京都での経験をもとに制作された3点の油彩画だ。

カール・ヴァルザー《婦人の肖像》(1902) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
カール・ヴァルザー《隠者》(1907) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
カール・ヴァルザー《人形の乳母車と少女》(1905年以前) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery

これらの作品は、ドイツの出版社の依頼を受け、小説家ベルンハルト・ケラーマンとともに来日した際に制作されたものだ。ヴァルザーは約半年にわたって日本に滞在し、その間に祇園祭の昼を描いた《山鉾巡行》、夜の祭りを描いた《祇園祭、京都・八坂神社》、鴨川の夕涼みを捉えた《京都先斗町の鴨川納涼床》を残している。特に、祭りの夜と鴨川の床を描いた2点には、京都の夜の気配がそのまま閉じ込められているように感じられた。

《祇園祭、京都・八坂神社》では、提灯飾りに照らされた舞殿が大きな存在感を放っている。画面に広がる暗がりに目を慣らし、周囲へ視線をめぐらせると、神輿を見ようと集まる人々の姿が少しずつ浮かび上がる。静かな画面でありながら、祭りの熱気やざわめきが奥から立ち上がってくるようだ。一方、《京都先斗町の鴨川納涼床》は、川面に張り出した床と、そこに集う人々を捉えている。床に灯る明かりは川面にも映り込み、細かな光の揺らぎとなって画面に散っている。そこからは、夏の夜の湿度や、人々の会話が遠くから聞こえてくるような気配まで感じられる。

カール・ヴァルザー《京都先斗町の鴨川納涼床》(1908) Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery
カール・ヴァルザー《歌舞伎の女型[阿古屋](《歌舞伎の一場面》のための習作》(1908)Photo: Courtesy of Tokyo Station Gallery

ヴァルザーが目の前の風景に深く没頭していた気配は、滞在中の他の作品にもみて取れる。京都府北部に位置する宮津では、家屋や庭、舞妓などを題材にした水彩画やスケッチを手がけている。祭りの賑わいや川辺の集いをとらえた油彩画とは違い、こちらは生活のなかの一場面を軽やかな筆致ですくい取っているが、画家が目の前の対象に静かに向き合っていた態度は変わらない。

対象と静かに向き合うヴァルザーのまなざしは、本展の各所で見つけることができる。象徴主義的な絵画、日本滞在時の油彩画や水彩画、書籍の挿絵、舞台美術。形式も目的も異なる作品を見ていくうちにそれらを貫く画家の姿勢が少しずつ見えてくる。約150点の展示作品を通して、その知られざる歩みに触れてみてほしい。

「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」
会期:2026年4月18日(土)〜6月21日(日)
場所:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
時間:10:00〜18:00(金曜は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし5月4日、6月15日は開館)

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