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Frieze LA 2023がいよいよ開幕! アンゼルム・キーファーによる壮大な「ホロコーストへの祈り」から、物議を醸すポール・マッカーシー版「白雪姫」まで、必見の展覧会トップ5

2月16日から19日まで開催されるフリーズLAは、これまで以上に規模を拡大し、22カ国から120以上のギャラリーが参加している。世界屈指のアートフェアの中でも特に必見の5つの展覧会を紹介する。

レーゲン・プロジェクツで2月19日まで開催中の「エリオット・ハンドリー:エコー」の展示風景。Photo: Evan Bedford/ Courtesy Regen Project

今年のフリーズLAには、昨年からいくつか変更点がある。太平洋から目と鼻の先にあるサンタモニカのバーカー・ハンガーの西側にも舞台を設け、東側にあるハリウッドとミッドウィルシャーはギャラリーのハブとして活況を呈している。ロバーツプロジェクツ、メイクルーム、カルマ、ゲバリーなど、新たにオープンした大型ギャラリーに誘われるように、ゲルハルト・リヒターも所属するデイヴィッド・ツヴィルナーやリッソン、マリアン・グッドマンも支店を構える予定だ。会場が増えれば、それだけ見るべきショーも増えるのはアートファンにとって喜ばしいこと。そんな見どころ満載のフェアの中でも、押さえておくべき5つの展覧会を見ていこう。

* 以下、各見出しは展示内容/ギャラリー名の順に表記

1. Elliott Hundley: Echo(Regen Projects)

Photo: Evan Bedford/Courtesy Regen Projects

陶芸、写真、アッサンブラージュ、ペインティングなど、美しくも混沌とした構成で展開されるこの展示は、フリーズ開催中のロサンゼルスの中でも「ベスト」と評するに値する内容だ。特に注目すべきは写真のコラージュで、そこには、ギャラリーの説明通り「あらゆる文化の残骸」が含まれている。壁には、魅惑的な絵コンテ、パターン、リズムを形成する何千もの小さな切り抜きが貼られており、作家の細部への徹底したこだわりが窺い知れる。作品は最終的に巨大なコンポジションとして立ち現れるが、同時に、微細なスケールでも機能している。絵画は静物画のような甘美なものから奔放なエネルギーを放つ抽象画まで、見応えがある。見る者にあらゆるものを一度に提示してしまう作家、Elliott Hundleyの驚異的な幅の広さに感嘆する。

6750 Santa Monica Boulevard, Los Angeles, California 90038

2. Softcore Payasos by LOS JAICHACKERS(La Pau)

Photo: Monica Orozzco

LOS JAICHACKERS(スペイン語で「ロス・ハイジャッカー」と発音)は、アーティストのEamon Ore-GironとJulio Cesar Moralesからなるデュオで、その表現はハイブリッドでエネルギッシュ。両者とも、美術、ナイトライフ、詩、政治的歴史など、国や分野の垣根を越えて、メキシコ系アメリカ人の文化の多様な要素を作品制作に取り入れてきたアーティストだ。幻想的でコンセプチュアルな二人のコラボレーションの中でも特筆すべき成果は、彼らが新しい音楽ジャンルを発明したことだろう。本展のハイライトである実験ドキュメンタリー「Psychomagic」(2023)は、2006年に制作された巨大な鏡面キューブ状のサウンドスカルプチャー《Migrant Dubs》の制作プロセスを追ったもの。《Migrant Dubs》はのちに、ミュージシャンのDJ Escubyのレコーディングスタジオとして使われることとなった。また、メキシコの道路標識「Rótulos」をモチーフにした手描きガラスのインスタレーションも必見だ(325日まで)

3006 W 7th St, Los Angeles, CA 90005(Door Code 01220)

3. Anselm Kiefer: Exodus(Gagosian at Marciano Art Foundation)

Photo : Jeff McLane/Courtesy Gagosian

評論家のJohn Yauは、「アンセルム・キーファーはアート界のスティーブン・スピルバーグ」と評したが、彼は100%正しい。キーファーとスピルバーグには、正と負の両方の共通点がある。いずれも自他ともに認める「天才」であり、その作品は巨大予算をかけて制作された大作ばかり。しかしそれらは、途方もない壮大さと卓越した技巧によって生まれたものだ。会場は、かつてフリーメイソンの寺院として用いられ、その後、数年前までは短期間の展示スペースとして機能していたMarciano Art Foundation(現在はガゴシアンがテナント)。そこに、これらの大作が柔らかなスポットライトを浴びて立っているさまは壮観。大掛かりな作品であると同時に、ホロコーストで奪われた命に対する心を打つ祈りでもある。これもまた、スピルバーグと比較される所以かもしれない(325日まで)

4357 Wilshire Boulevard, Los Angeles, CA 90010

4. Helen Cammock: I Will Keep My Soul(Art + Practice)

Photo: ©2022 Helen Cammock/Courtesy the artist

あまり知られていないイギリスにおける黒人の歴史を探究する作品で2019年のターナー賞を受賞した、イギリス人アーティストのHelen Cammock。彼女は入念なリサーチを通じて、異なる時空を紡ぎ合わせ新しい物語をつくり出したり、忘れられた、あるいは意図的に消去された物語を語り直す試みを行ってきた。今回、カリフォルニア・アフリカン・アメリカン博物館と非営利スペース、Art + Practiceのコラボレーションによって行われる個展は、彼女にとってアメリカ初となる展覧会だ。そこでは、ニューオーリンズの社会史、その中でも特にアーティストのElizabeth Catlettの人生と活動に関する研究をもとに制作された作品が発表されており、また、公民権運動に関する史料から自作の詩や陶芸、そしてニューオーリンズ滞在中に始めたというトランペット演奏という新プロジェクトまでが紹介されている(85日まで)

3401 W. 43rd Place Los Angeles, CA 90008.

5. Paul McCarthy: WS White Snow(作家自身のアトリエ)

Photo: Joshua White/©Paul McCarthy/Courtesy the artist and Hauser & Wirth

2013年にポール・マッカーシーがニューヨークのパーク・アヴェニュー・アーモリーで発表した没入型映像インスタレーション《WS White Snow》は、批評家たちの評価を完全に二分する作品だった。というのも、そのタイトルからも想像できる通り本作は、『白雪姫』という皆が知るディズニー映画の忌まわしい曲解であり、あからさまな性暴力の描写を含む卑猥でスカトロ趣味のユーモアが、8,800スクエアフィート(約74㎡)にもなる広大な人工林(実際にはビデオプロジェクション)に散りばめられていたからだ。最初の発表から約10年のあいだ、本作はロサンゼルス東部の倉庫に放置されたままとなっていたが、今回、ロサンゼルスのさまざまな機関がこの倉庫を保存するために協力し合い、4日間にわたる上映が実現した。さて、物議を醸す作品を多く発表してきたマッカーシーのキャリアの中でも最も賛否分かれる本作を、あなたはどう評価するだろう?

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