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元アシスタントらがトム・サックスのハラスメントを告発。スタジオは「暴力的で恐ろしい場所」

3月13日、米Curbed誌が人気アーティストのトム・サックスに関する暴露記事を公開。告発したのは彼の元アシスタントたちで、サックスのスタジオは、メンタルヘルスが脅かされる職場環境だったと語っている。

ニューヨークにあるプラダのショップで行われたファッションショー、「プラダ・リゾート2020」に出席したトム・サックスと妻のサラ・フーバー(2019年5月2日撮影)。Photo: Sean Zanni/Getty Images for Prada

Curbedは、この記事を作成するために十数人の元スタッフに取材しているが、ほぼ全員が秘密保持契約を結んでいることや報復への恐怖から匿名を希望したようだ。

彼らによる証言の内容は多岐にわたる。たとえば、サックスが頻繁にスタッフに物を投げつけたり怒鳴ったりしていたこと、倉庫が「レイプルーム」と名付けられていたこと(後に「同意ルーム」に変更された)、スタジオ内での「ヒエラルキーを知らしめるため」、スタッフへの贈りものの内容にもグレードをつけていたこと、スタッフの容姿や性生活を揶揄していたなど。さらに、サックスがスタッフを「自閉症」「知恵遅れ」「ビッチ」などと呼んでいたという証言もある。

記事の中で唯一名前を出している元アシスタントのオーウェン・ゾイトは、2021年に大学を中退してサックスのスタジオに入った。彼は、「結束が固く、スピード感のある職場環境」と肯定的に語っている。

一方、こう話すスタッフもいる。「彼はありとあらゆる機会を狙って人を不快にさせ、そんな自分をあたかも天才であるかのように見せる。そういう戦略だ。彼が残忍な人物だということはアトリエの外でも周知の事実だが、アート界は狭いので、それを表立って訴えることのリスクを怯えて誰も何とかしようとは思わない」

サックスは取材を拒否し、スタジオの広報担当者は「スタッフのコメントのほとんどを否定」したうえで、記事中で情報提供者が告発しているような行動は「私たちのスタジオの価値観にそぐわない」としている。

また、サックスと長年コラボレーションを行ってきたナイキは今回の告発記事に対し、「非常に深刻な疑惑に深く懸念している」と声明を出している

「史上最悪の仕事」の雇用主はサックス夫妻?

この暴露記事の数週間前には、ある「アート界の匿名カップル」が出したアシスタントの求人について、ニューヨーク・タイムズ紙が「史上最悪の仕事」だと報じたばかりだった。この求人には、とんでもない量と種類のタスクが羅列されており、そのあまりの過酷さがアート業界でもネット上でも話題になっていた。

ニューヨーク・タイムズ紙の記事が出てから間もなく、アートネットニュースが求人を出したカップルはトム・サックスとその妻でガゴシアンの元ディレクターであるサラ・フーバーではないかと推測する記事を出していた。今回のCurbedの暴露記事は、この推測を裏付けるものでもあり、元アシスタントたちによると、サックスは求人広告に出てくる「システム」という言葉を好んで使う傾向にあるという。サックスは、彼の家やスタジオで働く従業員が従わなければならない、奇抜で厳格なルールを設けることで知られている。

サックス自身、「10 Bullets」というタイトルの動画でいくつかのルールを公開している。彼のスタジオを紹介するこの動画の中で、あちこちにルールを書いた紙や付箋が貼られているのが確認できる。たとえば、「使った食器は片付けること」というごく当たり前のものから、「モノを置くときは必ず90度の角度で」というものなど、やや神経質だが異常とまでは言えないものだ。ただしCurbedによると、動画で紹介されているルールは氷山のほんの一角にすぎないという。

この件でトム・サックスのスタジオにコメントを求めたが、回答は得られていない。また、彼の所属ギャラリー、スペローン・ウェストウォーターの広報担当者に、今回の告発がサックスとの関係に影響を及ぼすかどうかを尋ねたが、コメントは控えるとの返答だった。(翻訳:野澤朋代)

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