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中国政府に配慮? バーゼル開催中の香港で、政治的メッセージを含む作品が撤去される

アートバーゼル開催中の香港で、現地百貨店のファサードに掲示されたデジタルアート作品が撤去された。作品に含まれる香港民主化デモに関連するメッセージが不適切と判断されたためだ。

パトリック・アマドンによる《No Rioters》が展示された香港のデパート、SOGOの外壁。Photo: Courtesy of Patrick Amadon

作品が展示された百貨店、SOGOは、繁華街のコーズウェイベイにある。同店は2000年、日本のデパート、そごうの経営破綻以降、香港の利福國際集團が商標を借りて営業している。

展示開始から数日間後に撤去されたのは、ロサンゼルス在住のアーティスト、パトリック・アマドンによる映像作品で、アート・バーゼル香港の開催に合わせ約3年ぶりに行われた香港の大規模な観光プロモーションの一環で、イタリア・ミラノのArt Innovation Galleryによるグループ展示「The Sound of Pixels」の1点として公開されていた。

《No Rioters》(暴徒はいない)と題された赤と黒で構成された本作は、百貨店のファサードに設置された約7×2メートルの大型デジタルパネルに展示されており、香港民主化デモで有罪判決を受けたアクティビストの名前や年齢、刑期の情報がフラッシュで表示されるというもの。アマドンは、2019年から2021年にかけて行われた香港でのデモのニュースや活動家をめぐる裁判、投獄、中国の「国家安全法」の影響を調べる中で、香港の人々への連帯を表現したいと考えたという。

US版ARTnewsの取材に対してアマドンは、作品について次のように語っている。

「検閲の過程に抜け穴があることがわかり、それをかいくぐって、作品にデモのスローガンである『自由香港』、『暴動は起こらず、暴政が行われるのみ』などの言葉を忍び込ませました。いずれ当局に発見されることは想像していましたが、それまで作品を展示できればよかったんです」

数年前に比べ、表現に対する検閲は厳しさを増している──香港における言論の自由に関するポジティブな報道とは裏腹に、状況が確実に悪化していることを「反論の余地なく示すもの」であると話すアマドンは、「作品は撤去されたことで完成した」と振り返る。「アート界の多くの人々が『香港が戻ってきた』と喜ぶ一方で、自由への侵害は確実に強化されていたのです」と話す。

イギリスのガーディアン紙によると、「作品撤去の決定に中国政府が関与したかは不明」だが、デパートの法務チームがArt Innovation Galleryに対し、アマドンのビデオに含まれるメッセージを把握していたかを尋ねたのは確かなようだ。

Art Innovation GalleryのCEOであるFrancesca Boffettiは同紙の取材に対し、「SOGOのオーナーはアマドンの作品に隠された繊細な政治的内容を懸念し、ただちに作品撤去の決定に踏み切ったと聞いている」と回答し、政府側の検閲について、SOGO側から言及はなかったことを明らかにした。

アマドンはこの一件により、今後、香港を訪れることができなくなる可能性が高いと話す。「私が法律違反をしたことは明らかであり、政府や百貨店に背く行為です。人はプライドを傷つけられれば、すぐには忘れません。それでも、数年後にありえないような政変が起きた時のために今、表現しなければならないと感じたんです。わたしは今回の結果に満足しています」

US版ARTnewsのメール取材に対し、香港の警察、SOGO、Art Innovation Galleryは現時点で回答していない。(翻訳:編集部)

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