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絵の具に卵黄? ダ・ヴィンチら、15~17世紀の巨匠作品に新説

レオナルド・ダ・ヴィンチサンドロ・ボッティチェリレンブラントファン・レインといった15~17世紀の巨匠たちは、油絵の具に卵黄などのタンパク質を混ぜて描いていたという説が、3月28日に学術誌「Nature Communications」で発表された。

サンドロ・ボッティチェリ《キリストの嘆き》(1490-95)© Bavarian State Painting Collections, Munch

これまで、当時の大多数の画家が乾きが早い、卵を使ったテンペラで作品を制作していたのに対し、ダ・ヴィンチらはタンパク質をバインダー(媒材)とせず、テンペラよりも乾くのが遅い油絵の具を使用していたと考えられてきた。しかし研究の結果、彼らは意図的に卵黄を油彩に使用していた可能性があることが判明した。

この研究の代表者であるドイツ・カールスルーエ工科大学機械プロセス工学・力学研究所のオフェリー・ランケは、CNNの取材に対し、「このことについて書かれた資料は非常に少なく、これまで深く研究されませんでした。私たちの研究結果は、ごく少量の卵黄でも油絵の具を驚くほど変化させることができることを示しており、芸術家にとって有益な技法であったことを実証しています」と話す。

古代エジプトでは、卵黄、顔料、水を混ぜたテンペラ絵の具を使用し、古代ローマでは、石膏に水と顔料を混ぜたフレスコ画がよく描かれた。7世紀の中央アジアに起源を持つ油絵の具が普及したのは、北欧では中世、イタリアではルネサンスになってからだ。

研究では卵黄、蒸留水、亜麻仁油、鉛白とウルトラマリンブルーの顔料を使って、巨匠たちの絵の具作りの工程を再現した。

その結果、卵黄の影響で、絵の具は酸化しにくくなることがわかった。それ以外にも、湿度に弱い鉛の白色塗料は、タンパク質を加えることで耐性を強めた。そして、厚塗りの際にボリュームを出せることも判明した。これは、当時は金よりも高価だったラピスラズリが材料のウルトラマリンブルーを製造する時に、ラピスラズリを節約するため採用されていたと思われる。

研究チームは、レオナルドの初期の作品のひとつである《カーネーションの聖母》(1478)を調査した。研究者によると、この作品には卵黄が使われておらず、マリアとイエスの顔に残っているしわは、卵黄を使用すれば回避できた可能性があるという。

同じく研究対象となったボッティチェリの《キリストの嘆き》(1490-95)の画材はテンペラがメインだが、背景や草の部分は、タンパク質を含む油絵の具で描かれていることが分かったという。(翻訳:編集部)

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