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MET理事から押収した略奪美術品が、スミソニアン美術館を経由して、内戦中のイエメンへ返還

4月下旬、ニューヨークのマンハッタン地区検事局が、総額72万5000ドル(約9600万円)相当の古美術品3点をイエメンに返還すると発表。この3点は、不正売買に関する疑いで差し押さえられていた。

紀元前5世紀のものとされる石膏製の雄羊像。イエメンのシャブワにある遺跡で見つかったが、1994年の内戦で略奪された。Photo: Courtesy of Manhattan District Attorney's Office

返還が発表されたのは、台座に文字が刻まれた石膏製の雄羊像、同じく石膏でできた女性像、細かな銘文の装飾がある銀器の3点。所有者のアートコレクター、シェルビー・ホワイトが不正売買に関与した疑いで捜査が進められていた。ホワイトはメトロポリタン美術館の理事でもある。

捜査の結果、これまでに10カ国89品目、約6900万ドル(約92億円)にのぼる古美術品がホワイトから押収された。この中には、先月トルコに送還された9点や、昨年12月に返還された古代ローマ古代ギリシャ略奪文化財も含まれている。

マンハッタン地区検事局によると、イエメンに返還される3点は、ホワイトがロンドンのマンスール・ギャラリー、アートディーラーのロビン・シームズ、そしてクリスティーズニューヨークオークションで入手したものという。シームズはその後、2005年に古美術品の不正売買で有罪判決を受けている。

3点のうち石膏製の雄羊像は、イエメンのシャブワにある遺跡、Hayd bin Aqeelの墓所から出土した紀元前5世紀の副葬品で、1994年のイエメン内戦中に略奪されたもの。石膏の女性像も、女性神を表した紀元前2世紀の副葬品。3つ目の銀製容器は西暦200年から300年頃のもので、そこに刻まれた銘文から、雄羊像と同じ場所で略奪されたと専門家は見ている。

マンハッタン地区検事のアルビン・ブラッグは声明で、今回の返還は、芸術や文化がいかに大きな希望の象徴となるかを示している。コレクターのシェルビー・ホワイトに関する捜査によって、数多くの古美術品がようやく故郷に戻ることができる」と述べた

なお、イエメンでは内戦が続いているため、この3点はワシントンD.C.のスミソニアン博物館で一時的に展示される予定。(翻訳:石井佳子)

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