ハッセルブラッド国際写真賞にキャリー・メイ・ウィームス。黒人女性として初の栄誉
「写真界のノーベル賞」と言われるハッセルブラッド国際写真賞の今年の受賞者に、キャリー・メイ・ウィームスが選出された。アフリカ系アメリカ人の女性写真家として初の受賞となる。
3月8日、2023年のハッセルブラッド国際写真賞の受賞者がハッセルブラッド財団から発表された。存命する写真家に与えられる最も栄誉ある賞を受賞したのは、現在最も影響力のあるアーティストのひとり、キャリー・メイ・ウィームスだ。
この賞は、スウェーデンのカメラメーカー、ハッセルブラッドの創業者であるヴィクトル・ハッセルブラッドと妻エレナの資産を基に1980年に設立された。写真界で顕著な功績をあげた人物を称え、賞金200万スウェーデンクローナ(約2500万円)と金メダルが授与される。
これまで、ナン・ゴールディン、グラシエラ・イトゥルビデ、ワリード・ラード、シンディ・シャーマン、ヴォルフガング・ティルマンスなどが受賞し、日本人では濱谷浩、杉本博司、石内都、森山大道が選出されている。昨年は、ダヤニータ・シンが南アジア系アーティストとして初めて受賞した。
ウィームスは40年以上にわたり、個々の人間、そして世界の歴史の主観性を人種やフェミニズムの視点から追求してきた。その活動はマルチメディア・インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスなど多方面にわたるが、中心となるのは写真作品で、少ない登場人物で家族愛や恋愛のもつれなどの複雑な思いを表現するのが特徴だ。
現代写真に大きな影響を与えた代表作、「キッチンテーブル・シリーズ」(1990)では、ウィームス自身も被写体となり、キッチンテーブルを舞台にさまざまな役を演じている。そこには、恋人、友人、家族など、さまざまな人物がキッチンテーブルに登場し、モノクロのエレガントな写真の中で物語が展開される。この作品での彼女は、主人公であると同時に永遠の観察者であり、本人の言を借りれば「まず目にすることのない状況への案内人」。
ハッセルブラッド財団は、ウィームスを表彰する中でこう述べている。「その作品は、人種間の平等と人権を求める闘いという現代における重要な課題を先取りしたもので、揺るぎない視覚的・倫理的な力が示されている。ウィームスの制作活動の本質は、アクティビスト的であり、痛烈でありながら叙情的でもある。感情をゆさぶる力強い作品を生み出す中で、彼女は苦痛に満ちた歴史、制度的権力、社会的差別と対峙している」
授賞式は、10月13日にスウェーデンのヨーテボリで行われる。同日、ハッセルブラッドセンターで受賞記念展が開幕し、ウィームスの活動に関する新たな書面も発表される予定だ。
受賞についての声明でウィームスは、「美術館などの文化施設が急進的な変化を推進している今、アフリカ系アメリカ人の女性として初のハッセルブラッド賞受賞者となったことで、『そろそろそんなことがあってもいい時期だ!』と言う人がいるかもしれません。それでも、今回の受賞は言葉にできないほど嬉しいものです」と語り、こう付け加えた。
「評価されることには、自分自身の、そして写真界の期待に応えるという継続的な責任が伴います。それは、この時代の暗部に光を当てることで、品位と謙虚さをもってこの先の道を照らすことです」(翻訳:石井佳子)
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