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ロシアの美術館から名作を集めたルイ・ヴィトン財団の展覧会、作品返却に問題発生か

ルイ・ヴィトン財団がパリで開催中のモロゾフ・コレクション展には、2021年9月22日の開幕以来、100万人を超える来場者が詰めかけている。展示されているのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてパトロンとして活動したロシア人、イワンとミハイルのモロゾフ兄弟が収集した世界有数の近代美術コレクションだ。

ルイ・ヴィトン財団のモロゾフ・コレクション展のオープニング Romain GAILLARD-POOL/SIPA via AP
ルイ・ヴィトン財団のモロゾフ・コレクション展のオープニング Romain GAILLARD-POOL/SIPA via AP

今回の展示作品の多くは、プーシキン美術館、国立エルミタージュ美術館、国立トレチャコフ美術館の所蔵で、ロシア国外に出ることはほとんどないものだ。

ところが今、想定外の事態が起きている。所蔵美術館への作品返却に問題が生じそうなのだ。ロシアのウクライナ侵攻で美術品の輸送に支障が出ているため、セザンヌ、ボナール、ルノワールといった印象派の名作を、4月3日の会期終了後にロシアに輸送できるどうか見通しが立っていない。

駐仏ロシア大使のアレクセイ・メシュコフは3月2日の記者会見で、「現状では、ロシア・フランス間のフライトなどに大幅な規制が行われていることから、困難な状況になるのは明らかだ」と輸送面での問題を示唆したうえで、「解決策は見つかると確信している」と付け加えた。ルイ・ヴィトン財団側はコメントを差し控えている。

モロゾフの作品がパリで立ち往生することになれば、ロシアが引き起こした戦争による混乱が世界中に広がりかねない。すでにロシア国内では、出展アーティストの抗議により様々な展覧会が中止されている。一方、ロシアの美術館からの作品借り入れによる展覧会は、今のところ、ほぼ予定通りに開催されている。

しかし、今後は世界各地の展覧会に影響が及ぶ可能性が高まりつつある。エルミタージュ美術館は先頃、ナショナル・ギャラリー(ロンドン)で行われるラファエロの大規模展覧会で展示が予定されていた重要な作品の貸し出しを中止すると発表。また、ロシアの4つの美術館が、ガッレリエ・ディタリア美術館(ミラノ)に貸し出し中の作品の返還を要請した。これらの作品は現在、2022年3月末に閉幕する展覧会「Grand Tour(グランドツアー)」に展示されている。

展示作品の一部だけがロシアからの借り入れによるこれらの展覧会とは異なり、パリで開催中のモロゾフ・コレクション展はロシアの美術館からの貸与作品が中心であるため、影響は甚大なものになる恐れがある。

2022年2月、ルイ・ヴィトン財団のCEO、ジャン=ポール・クラベリーはル・フィガロ紙に対し、ロシアへの作品返還を「確約」するとともに、「もしも安全な輸送のための条件がそろわないことが判明した場合は、状況が好転するまで待つ」と述べている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月17日に掲載されました。元記事はこちら

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