「2021年のアート市場は前年比3割増」アート・バーゼル×UBSリポート2022版が発表。オークションの売上高はV字回復、富裕層の7割強がNFTアートを購入

2021年にアート市場は前年比で29%増の推計651億ドルになり、オークションの売上高は同47%増とV字回復。富裕層コレクターの74%がNFTアートを購入するなど、新型コロナ禍で縮小した前年から一転して、市場は力強く回復した――こんな結果を、「The Art Basel and UBS Global Art Market Report(アート・バーゼル・アンド・UBS・グローバル・アート・マーケット・リポート第6版、略称「アート・マーケット2022」)が、このほど発表した。世界最大のアートフェア「アート・バーゼル」とスイスの金融機関UBSが、毎年3月にまとめているリポートだ。22年版では、初めてNFTについても深く掘り下げた。

2021年アートバーゼルの会場風景 ©Art Basel, Courtesy of Art Basel

同リポートは、アート市場の動きを分析、解説しており、アート関係者は必読とされる。最新版によると、2021年のアート市場規模は2019年水準を上回った。国別で世界1位の米国はシェアを43%にまで拡大し、中華圏は20%と、英国を抜いて2位に。また、フランスの伸張が著しかった。対面のオークションやイベントが再開され、オークションの売上高は推定263億ドルに達した。徐々に再開されたフェアの売り上げはコロナ前の水準には戻っていないものの、今後12カ月間に売り上げが「増加する」と予測するディーラーは3分の2に及ぶ。オンライン販売は、21年は7%増と小幅の増加だったが拡大を続けている。

注目すべきは富裕層(HNW=ハイ・ネット・ワース)の動きで、積極的に美術品と骨董(こっとう)品を購入。支出額の中央値は、2019年を1とすると20年には1.75、21年には3.8にまで伸びた。富裕層コレクターの9割近くはいずれNFTアートを購入したいと興味を示しており、過半数は22年もアートを購入する予定という。

「アート・マーケット2022」は、これまで同様、アーツ・エコノミクス社の創業者で、著名な文化経済学者のクレア・マキャンドルー博士が執筆。アーツ・エコノミクスとUBSインベスター・ウオッチによる富裕層コレクターの動向調査も含まれている。なお全文(英語)は、アート・バーゼルまたはUBSのウェブサイトから無料でダウンロードできる。

以下、ニュースリリースの内容を紹介する。

世界の売上高:世界のアート市場の売上総額は、2020年には過去10年で最大の減少を記録したが、2021年には力強く回復し、ディーラーやオークションハウスによる美術品・骨董品の売上高は2020年から29%増の推定651億ドルに達し、新型コロナ禍前の2019年の水準を上回った。

主要な市場:米国が世界市場における首位の座を維持し、シェアをさらにやや広げ、世界市場の43%を占めた。中華圏は20%で2位となり、英国は17%で3位に後退した。

  •  2021年の米国市場は堅調に回復し、売上高は33%増の280億ドル強となった。
  •  中華圏の売上高も大幅に上昇して35%増の134億ドルに達し、世界ランクで英国市場を押しのけた。
  •  2019年、2020年の2年連続で売り上げが減少していた英国市場は、2021年には前年比14%増の113億ドルにまで回復した。
  •  2020年に30%以上落ち込んだフランスの売り上げは、2021年に著しく回復し、前年比50%増の47億ドルとなり、過去10年間で最高の伸びとなった。

ディーラーに関する数字:ディーラーによる売上総額は、2020年に20%減少した後、2021年には推定347億ドルに達した。前年比で18%の増加だったが、依然として2019年水準より下回っている。ディーラー全体では、対2020年比で年間売上額が「増加した」ディーラーが最多の61%を占め、「横ばい」が13%、「減少した」が26%。前年比で業績が最も拡大したのは、売上高500万ドル以上1000万ドル未満のディーラー(35%)で、小規模ディーラー(売上高25万ドル未満)は最も少なかった(6%)。全ディーラーの中で、2020年よりも利益率が「上がった」と回答したのは55%、「横ばい」は21%、「下がった」は24%だった。

 オークションに関する数字:2021年の美術品・装飾美術品・骨董品の公開オークションでの売上高(オークションハウスの非公開入札を除く)は推定263億ドルに達し、2020年に比べて47%も増えた。価値の高い作品が競売に掛けられたことや、新規購買者が急増したことが推進力となった。非公開取引も引き続き盛んで、2020年の31億ドルを32%上回る41億ドル近いと推定される。米国、中国、英国だけで、公開オークションの販売額のうち78%と圧倒的なシェアを占め、この3カ国が依然として国際オークション市場の中心となっている。このうち中国は、対前年比3ポイント減の33%となったが、32%の米国をわずかに上回り、公開オークション市場のトップの座を維持。注目されるのがフランスで、60%強もの大幅な上昇で22億ドルに達した。新型コロナ前の2019年を28%上回り、世界市場でのシェアを6%から9%に伸ばした。

NFT:世界の売上高651億ドルに達したアート市場とは別に、NFTの専用プラットフォームでの販売が急騰。アート市場の外で行われたアート関連NFT(NFTアート)の販売額は、2021年に対前年比で100倍を超えて拡大し、26億ドルに達した。NFTのコレクターズアイテムはさらに大きく、86億ドル市場に成長。アート市場外のNFTプラットフォームでの取引件数も、2019年の75万5760件強から550万件へと急速に拡大し、特にコレクターズアイテムが販売件数の多くを占めている(2021年の取引の85%)。

2021年に、アーツ・エコノミクスとUBSインベスター・ウオッチの調査対象となった富裕層(HNW)のアートコレクターは、74%がNFTアートを購入しており、NFTアートへの支出額の中央値は1点9000ドルだった。NFTの販売は、伝統的なアート市場のオークション部門でも2021年に始まったものの、これまでのところ限定的だ。

オークションハウス別に見ると、クリスティーズのNFT販売額は、記録的な6930万ドルで3月に落札されたビープルの《Everydays: The First 5,000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》(2021年)を含めて、総額1億5000万ドルだった。サザビーズは8000万ドルに達した。これらのオークションハウスは、若い購買者や新規購買者の獲得に最も成功。NFTの入札者の78%は初めてサザビーズを利用した人たちで、また過半数は40歳未満だった。中堅オークションハウスは、調査では、わずか5%しか2021年にNFTアートを販売していなかったが、28%は今後1、2年の間に参入を予定していた。ディーラーの調査も同様で、全体のわずか6%しか2021年にNFTを販売していなかったが、より多い19%が今後1、2年の間に販売したいと答えていた。

オンライン販売:オンライン市場は拡大し続けている。2021年は7%増と成長は緩やかだったが、推定133億ドルに達した。2021年のオンラインによる販売は全体の20%で、前年比では5ポイント減だが、依然2019年(9%)の倍以上だ。1000万ドル超規模のディーラーだけで見ると、オンライン販売の割合は2019年の9%から2020年には47%と大幅に増えた。だが、2021年にはアートフェアが再開して対面販売が盛り返したため、オンラインの割合は再び減少した。アートフェアのオンライン・ビューイング・ルーム(OVR)を含めると、1000万ドル超規模のディーラーによるオンライン販売は25ポイント減の22%になり、次に数の多い中規模ディーラー(100万ドル以上1000万ドル未満)も13ポイント減となった。

一流のオークションハウスは新しい販売方式を導入し、ライブ中継や、オンライン限定のオークション用プラットフォームの配信と品質向上のために多大な投資をした。ライブストリーミングによるオークションのいくつかは2021年で最も成功したライブ販売に。従来は季節ごとの周期開催だったオークションを、年間を通して連続的なスケジュールで開くことが可能になった。

アートフェア:2021年のアートフェアは開催数がまだ少なく、一部で規模が縮小されたものの、再開された。それに伴って、アートフェアの売上高(OVRを含む)は前年比7ポイント増の29%に増えた。だが2019年の43%には遠く及ばない。アートフェアの完全再開が遅れたうえコストの懸念も根強く、2021年にディーラーが出展したアートフェアの数は、新型コロナ前の水準を下回っている。ディーラーは2019年には平均4回アートフェアに出展していたが、2020年には3回に減った。しかも実会場での展示1回とOVRでの展示2回だった。2021年もアートフェア出展は平均3回にとどまったが、その内訳は逆転し、実会場での展示が2回、OVRが1回に。今後については、調査対象となったディーラーの多く(65%)は、今後12カ月間にアートフェアでの売り上げが「増加する」と予測、「わからない」は11%、「減少する」はわずか9%だった。

世界の富裕層と富裕層(HNW)コレクター:アーツ・エコノミクスとUBSインベスター・ウオッチが世界10市場で実施したHNWコレクター2339人を対象とする調査によると、2021年の支出額は急増した。平均して、2019年と2020年よりも多くの美術品と骨董品を購入。新型コロナ下でもアート市場が活況を維持したことに、彼らの重要性の高まりが表れている。美術品、装飾美術品、骨董品の支出額の中央値は、2019年の7万2000ドルから2020年には12万6000ドルに上昇し、2021年には27万4000ドルと2倍以上になった。

世代別では、2020年の調査で最も高い中央値を示したミレニアル世代は、2021年には25万1000ドルにとどまり、X世代(29万8000ドル)にやや及ばず、特にベビーブーマー世代を大幅に下回った。ベビーブーマー世代は、購入点数は少ないものの、平均支出額は34万6000ドルと最も高かった。購入経路では、2021年に多くのコレクターが最も利用したのはディーラーで、調査対象の76%が何らかの形でギャラリーかディーラーを通して購入していた。オンライン販売への移行は顕著で、ディーラーのウェブサイトかOVRを通じた直接購入が最も広く(回答者の44%)利用された。一方、ギャラリーなど実店舗での購入は42%(2020年比で5%減)だった。

今後の展望:今後12カ月間の行動を予測すると、HNWコレクターの過半数(53%)が2022年にアートを購入する予定だという。デジタルアートへの関心の高まりは明らかで、特に若いコレクターに顕著だ。HNWコレクターの半数以上(56%)が2022年にデジタルアートを購入することに興味があると回答し、この割合はミレニアル世代で最も高かった(61%)。また、NFTへの関心が薄れる兆しはなく、HNWコレクターの88%が将来NFTアートを購入したいと考えている。ディーラー、オークション会社とも2022年の業績予測は楽観的で、ディーラーの62%、中堅オークション会社の81%が2022年の業績回復を見込んでいる。

◆アーツ・エコノミクスの創設者、クレア・マキャンドルー博士のコメント

「2021年のアート市場は、依然として非常に厳しい状況下で運営されたにもかかわらず、総売上高が大幅に増加し、驚くべき回復力を示した。ディーラーやオークションハウスは、販売とイベント開催をオンラインとオフラインの双方で実施する新しいシステムに見事に適応した。また、HNWコレクターの資産の増加が、市場のハイエンド需要を支えた。過去2年間で急速に拡大したオンライン販売は、2021年もアートの売り上げ増加に貢献し、多くの新規コレクターら世界中で拡大中のアートファンが継続的に市場にアクセスすることを可能にした。しかし、市場が勢いを取り戻すにつれて、イベントの中止・延期やデジタル移行は、市場の階層を再構築するまでには至らなかったことが明らかになった。そして、市場のハイエンド購買層は再び富を蓄積し始め、少数のアーティストや企業への価値の集中が加速している」

◆アート・バーゼルのグローバルディレクター、マーク・シュピーグラーのコメント

「2021年、新型コロナ禍の影響は幅広い方面に甚大に及んだ。しかし、クレア・マキャンドルー博士の分析結果は、アート市場全体は2021年に力強く回復し、新型コロナ前の水準を上回りさえしたと明確に示している。ただし、回復は非常に不均一で、大手のオークション会社やトップクラスのギャラリーの優位性が特に増している。また、対面販売の回復に伴い、2021年のオンライン販売は、予想された通りに割合こそ後退したが、その販売総額はさらに増加した。アート界の電子商取引が今後も続くことは確実だ」

(翻訳:清水玲奈)

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