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いま注目されるクリエイティブ・エイジング:高齢者が創造的に、ポジティブに年齢を重ねるには

美術館の展覧会に足を運ぶ趣味のある高齢者は、そうでない人々に比べて、医師の診察や薬の服用が少ないと言われている。米国では今、美術館が主催するアートプログラムなどを通して創造的かつポジティブに年齢を重ねようという「クリエイティブ・エイジング」の試みが広がっている。その中のひとつ、ベインブリッジアイランド美術館のクリエイティブ・エイジングプログラム担当アソシエイト、アニカ・タバチニック にARTnewsがインタビューした。

2021年度のBIMAサマーアートマーケット来場者によって制作された、高齢者への手紙。手紙はキトサップ郡とキトサップ図書館が共同で配布した。 Courtesy Anika Tabachnick

── ベインブリッジアイランド美術館(BIMA)にはいつから勤務されていますか?

クリエイティブ・エイジングプログラムの美術館初の責任者として、2020年10月から勤務をしています。着任した当初は、プログラムに関わる案件の多くが保留状態の上、初年度は新型コロナウイルスの影響で大部分が閉館していました。

 ── クリエイティブ・エイジングプログラムとはどういうものですか。

高齢者による、高齢者のための多様なプログラムやプロジェクト、展覧会などを包括する総称です。ここベインブリッジ島には非常にアクティブな65歳以上の住民が大勢暮らしています。プログラムは彼らに活動の場を提供するのが目的ですが、そこで聞いた彼らの意見を、BIMAで今後行うイベントなどに反映する取り組みでもあります。

── あなたの具体的な仕事内容について聞かせて下さい。

週に1度のマインドフルネスや、初期の認知症の人々とその付添人のための「Look Again(もう一度見つめよう)」と呼ばれるアートディスカッションなど、定期的に実施するイベントの運営、そのほか高齢者センターなどの、高齢者を対象にした団体への社会支援の管理を担当しています。また、世代を超えて楽しめる展覧会やイベントのキュレーションにも従事しており、精神的・肉体的に障害があるため美術館に足を運びにくい人々が利用しやすくなるような施設づくりや交通手段など、環境の整備にも努めています。

 ── プログラムの目標にはどのようなことが挙げられますか?

世代間交流には素晴らしい可能性があると考えています。それをクリエイティブ・エイジングプログラムにどのように織り込めるか模索しているところです。

人は孤立や分断の中で老いていく事はできません。世代間交流はすべての人にとって意味のあることなのです。私はその相互作用を我々の活動すべてのベースにしていきたいと考えています。

 多くの美術館や文化機関は幅広いコミュニティを対象にしていますが、私たちが焦点を当てている高齢層と非常に若い年代という2種類のグループは多くの場合、目的を見失ったり、表面的な活動だけで満足しようとしたりしています。参加をしているからといって、彼らの意見が取り入れられているということにはなりません。彼らは美術館での体験に安らぎや価値を見いだしているかもしれませんが、それだけではなく、能動的に貢献できることも多くあるように思います。

アニカ・タバチニック Photo:Derrick Hammond/Courtesy Bainbridge Island Museum of Art

── 新型コロナウイルスはあなたの仕事にどのような影響を与えましたか?

パンデミックの渦中にこの役職に就いてよかったことのひとつは、仕事内容について先入観無く臨むことができた事です。当初、美術館においてプログラムは奉仕活動の取り組みとして捉えられていましたが、それが長年なおざりにされてきた、地域や住民に対してより良い貢献をしようという考え方に変化していきました。

 高齢者の多くは孤立感に苦しんでいて、コロナ渦におけるソーシャルディスタンスがさらに状況を悪化させています。私たちが最初に再開したプログラムは、BIMAにおいて最も長く実施されてきたもののひとつでもあるマインドフルネスでした。そして、このプログラムを通してコミュニティを構成してきたグループの中核を成す人々と共にZoomでのミーティングを開始しました。2021年夏には物理的に集まっての開催という選択肢も浮上しましたが、グループはオンライン形式の継続を選びました。ミーティングはその後、ベインブリッジ島以外の人々も参加できる形に拡大し、このプログラムのデジタル化は新たな幅広いネットワークを形成しつつあります。

── ひとつのプロジェクトに携わる際、どのような点に注意しますか?

プロジェクトが、それに関わる人々に対してどのような働きをする仕組みになっているかについて考えたいと思っています。美術機関はよく「参加型」のプロジェクトに取り組みますが、参加者が実際にどのように感じているかについての検討は十分ではないと思います。

 私自身、新しいプログラムを展開するための予算や設備がある状況を非常に幸運だと感じています。昨年はLGBTQプライドにちなんだ期間限定展示の企画を担当しましたが、個々の作品に焦点を当て過ぎるのではなく、むしろ書き言葉や視覚芸術を通して、観客が作品の持つストーリーを共有できるよう工夫しました。展覧会は大きな成功を収め、今年も同様の企画を行う予算と時間が与えられているので、私が従事するその他の仕事にも結びつけていきたいと考えています。

私はこれを様々な異なるグループとの協働や地元のアーティスト支援、またアーティストを教育者として巻き込んでいくチャンスだと捉えています。最終的な形よりも過程に焦点を合わせ過ぎるとその成果の解釈が難しくなるという不安はありますが、このような展覧会の実施は興味深いプロセスと良い結果の双方を生み出し得るのです。(翻訳:山越紀子)

 ※本記事は、Art in Americaに2022年5月27日に掲載されました。元記事はこちら

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