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米国の美術館が女性アーティストのみの展示スペース建設へ。コレクターが1200万ドルの寄付

  • 2022年6月22日
  • INTERNATIONAL

Text: Tessa Solomon

女性アーティストは男性に比べ、美術館での展示機会が少ないという現実がある。先ごろスイスの金融機関UBSが発表した米国のアート市場に関する調査でも、性別による不平等が残っていることが指摘されている。そんな中、ある美術館で女性アーティストの作品を常設展示するため、施設の拡張が行われている。

アルテミジア・ジェンティレスキ《Self-Portrait as Clio(クリオとしての自画像)》(1593-1653) Courtesy Muskegon Museum of Art

ミシガン州は、東のヒューロン湖と西のミシガン湖に挟まれている。ミシガン湖に流れ込むマスキーゴン川の河口にあるのがマスキーゴン湖とマスキーゴンの街だ。上空から見ると、街は青く広がる湖に刺さったピンのように思える。1912年に設立されたマスキーゴン美術館(MMA)はそんな街にあり、所蔵品は約5000点という中規模の美術館だ。

カーク・ホールマン館長は美術館の計画について大げさな物言いはしないが、MMAでは大きなプロジェクトが進められている。米国でも数少ない、女性アーティスト専門の常設展示スペースが設けられることになったのだ。これは、テキサス州サンアントニオのコレクター夫妻、スティーブン・アラン・ベネットとエレイン・メロッティ・シュミットの大規模な寄付によって実現するもので、総額は1200万ドルに上る。その中には、115人のアーティストによる150点を超える絵画や、女性アーティスト専門展示棟の建設費用150万ドルが含まれている。

寄贈作品の中には、ギリシャ神話の歴史の女神として自らを描いたアルテミジア・ジェンティレスキの自画像、エレイン・デ・クーニングのヌード、メアリー・カサットの肖像画などがある。コレクション展は定期的に展示替えされるが、ジェンティレスキなど一部の作品は常設展示される予定だとホールマン館長は言う。また、多様なジャンルで活躍する女性アーティストの特別展も開催される予定だという。

美術館では2400平方メートルの拡張が進行中で、完成すると総面積は従来の2倍になる。ホールマン館長が「運命的」と言うこのプロジェクトが完成を迎えるのは、2024年初頭だ。

アート界では、女性アーティストへの認識が少しずつ深まってきているようだ。たとえば2022年のヴェネチア・ビエンナーレでは、初めて出展アーティストの大半が女性で占められた。女性の物故作家現在活躍中のアーティストの回顧展が数多く開催され、女性作家だけで構成された展覧会やフェミニストにフォーカスした企画展も増えている。その結果、女性アーティストに関する知見の欠如が浮き彫りになっただけでなく、新たな研究が促され、さらには商業的な市場価値への注目も高まっている。

とはいえ、美術館やアート界全体のジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)に関しては、まだ取り組むべき問題も多い。美術史家のマウラ・レイリーは、2015年のARTnewsへの寄稿の中で、リンダ・ノックリンによる先駆的な論考「なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか」が1971年にARTnewsに掲載されて以降も、美術館における女性アーティストの展示状況がどれほど改善されていないかを解説している。

最近の研究で示された改善も、わずかなものだ。2019年3月にオンライン・ジャーナルのPLOSワンに掲載された調査では、米国の主要18美術館の所蔵品の87%が男性アーティストのものであることが判明した。その後、アートネット・ニュースとアート・エージェンシー・パートナーズ(アートアドバイザリー会社)が共同で調査したところ、主要26美術館の所蔵品のうち、女性アーティストの作品はわずか11%に過ぎないことも明らかになった。

ベネットとシュミットは、こうした状況こそが、コレクションを始めた理由だったと述べている。

「私たちの収集に対する姿勢は、男性アーティストを批判するつもりも、誰の悪口も言うつもりもない、というものです。ただ、主要な美術館やギャラリーで顧みられることのなかった女性アーティストの作品に、最初から注目していました」とベネットは説明する。

2人は2009年から、女性アーティストによる「具象的リアリズム」絵画の収集を始めた。とはいえ、その基準は柔軟で、エレイン・デ・クーニングのように女性的な形を暗示しただけの作品もある。

2018年には、年齢や経験を問わず、まだあまり名の知られていない女性画家を対象とした公募制のベネット賞を発足させた。同賞の応募資格は、作品が1点2万5000ドル以上で売れた実績がない、あるいは同額以上の賞金の受賞歴がないことで、受賞者には個展開催の費用として5万ドルが贈られる。これは、女性アーティストにのみ提供される賞としては最高額だ。


2021年ベネット賞を受賞したアヤナ・ロスの作品《SWBAT》油彩、ボード The Bennett Prize

受賞者の展覧会は、まずMMAで開催され、その後全米を巡回する。しかし、企画展は見学者を集めてもやがて会期が終了するため、美術館を成り立たせるのは、結局のところ常設展になる。

ベネットとシュミットは、2020年にコロナ禍が始まるまでコレクションの寄贈を真剣に考えたことはなかったという。シュミットは、「道徳という言葉が頭をよぎりました。私たちも年を取ったので、作品が安住できる家を見つけなくてはと考えるようになったんです」と語る。

ベネットはこう付け加えた。「コレクターは誰しも、自分が作り上げたコレクションという集合体を守りたいものです。しかし、ほとんどの美術館は、あるコレクターの収集ビジョンを受け入れるのではなく、個別の作品を入手したがるのが現実。MMAと交渉を始めてみると、女性アーティストの作品がかなり欠けていることが分かりました。そして、私たちが収集した現代作品の多くは、まさにその隙間を埋めるものだったというわけです」

MMAの理事会は、シュミットの言葉によれば、知名度の高い大手美術館のように「うるさいこと」は言わなかった。また、すでにベネット賞の提携機関としての実績もあった。

MMAのトップが、現代アート作品を積極的に収集する必要性を認識していたことも、プロジェクトを後押しする大きな要因になった。同館の所蔵作品は18世紀〜19世紀の欧米の絵画が中心だが、今回の寄贈により、アフロ・キューバ系のアーティスト、ハルモニア・ロサレスなどの新しい視点の作品も加わることになる。

近年、ブルックリン美術館、ダラス美術館、そしてロンドンのテートなど、世界の主要美術館で、女性や有色人種のアーティストをより多く紹介できるよう常設展示や所蔵作品の見直しが行われている。MMAのプロジェクトは、こうした実験的なキュレーションに続くものとなる。

見直しの最も顕著な例は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が2019年に発表したコレクションの再構成だろう。これは、従来の「〜イズム(主義)」による直線的な美術史に沿った作品展示をやめ、テーマごとに作品を並べ替えるという試みだ。

中でも注目されたのは、ピカソの《アヴィニョンの娘たち》(1907)と、黒人女性の代表的アーティストであるフェイス・リンゴールドによる《American People Series #20(アメリカン・ピープル・シリーズ#20)》(1967)の組み合わせだ。しかし、このような並置は、男性アーティストに必要以上のオマージュを送る役割を女性アーティストに押し付けるものだという批判もある。

MMAは、今回の新館建設で女性アーティストの作品を永続的に展示する場を確保する。ホールマン館長は、「ぜひ作品を見に来てほしいですね。特に他の美術館の関係者が見に来て、参考にしてくれたらうれしいです」と述べている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月10日に掲載されました。元記事はこちら

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